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サンフランシスコからシアトルに到着したのは6月27日。この日ギグは中休みである。私達もシアトル市内を散策したり、「イチローが見たい」と言う夫への家族サービスで夜はセイフコ球場にシアトル・マリナーズの試合を見に行ったりした。アメリカの球場で野球を観戦するのは初めてだったが、そのロック・コンサートのような雰囲気に圧倒される。ちょうど球場の25周年にあたる年ということで、各イニングの合間には音楽がハデに鳴らされ、大スクリーンに過去のさまざまな名場面が映し出される。そのBGMの選曲がいいのだ!ビーチ・ボーイズの「バーバラ・アン」が流れ、数万の観客が踊り出し、球場全体がグルーヴする。アメリカの政治や経済政策に対する批判は常にある。しかし少なくとも、とにかくこれは物凄いパワーとスケールを持つ、とてつもない「文化」だと実感する。「ルイ・ルイ」が響き渡った時は感動した。この曲をカバーしたあの数々のガレージ・バンド -- キングスメン、ソニックス、ウェイラーズ、ポール・リヴィアー・エンド・ザ・レイダース、そしてヘンドリックスを生み、グランジを育んだ、ここは偉大なロックの発信地「大ノース・ウェスト」の中心地なのだ。雨模様の木曜日だというのに球場は超満員で盛り上がり、マリナーズが快勝した。


翌日の昼間はシアトル在住の友人に会い、夜になってこの旅行最後のギグを見に「グレイス・ランド」へ出かける。ホテルのロビーで呼んでもらったタクシーを待っていると、フロント係の男性にどこに行くのかと訊ねられた。グレイス・ランドにギグを見に行くと答えると彼は「僕がすごく好きな場所だ、よく行くんだ」と言って、いくつかのバンド名を挙げた。シアトルのような洒落た街のコギレイなホテルの従業員が気に入りの場所と言うんだから、どんなにかヒップな場所かと思いきや、今回の3ケ所のうちではグレイス・ランドの「場末度」が最も高かった。

会場に着くと最初の前座バンドが終わるところで、マザー・スペリアーが始まるまでの間にベースのダグ・ラーンに会う。ダグとは、去年サンディエゴにミック・ファレンのザ・デヴィアンツを見に行った時ベースを弾いていた彼と話をしたことがあったので、私達のことを覚えていてくれていたのだ。今日の午後は地元のテレビ局でライブの収録を行ったと教えてくれた。ウェインは楽屋にいるよ、と気軽に案内してくれる。

ウェイン・クレイマーは、階上の小さな部屋に、グレイス・ランドの支配人とおぼしき男性と、ウェインの元夫人マージョリーの友人という男性と3人で談笑していた。入りなさいと招き入れられてそばで話を聞く。ウェインはギターに弦を張っているところで、その正面に座った私は息が止まりそうだった。この行為を、この人は、60年代からずっと、あの時も、あそこでも、行ってきたのだと思うと、MC5のヒストリーやウェインをめぐるさまざまなエピソード、彼の苦難の時代などが頭の中を駆け巡り、静かに談笑しながら1本1本弦を張っていくその姿を、私は声も出ずに見つめた。やっとのことで「テレビの収録があったんですか」と訊ねると、「そうそう、キック・アウト・ザ・ジャムズを入れてくれって言われてね、あの歌には下品な言葉が入ってるけどいいのかなってきいたら、連中、そのまま入れてくれって言うんだよ」と、ウェインはおかしそうに語るのだった。ダグが戻って来たので私達は部屋を出て階下に戻った。

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