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ジョン・グリフィンによるレビュー(2002年8月)
Written by John Griffin (August 2002)
Reprinted/translated by permission of the author

なんだかクリスマスの朝みたいな雰囲気だった。その日、待ちに待ったMC5のドキュメンタリー映画「MC5*実証」の第2回目上映に集まった僕らMC5ファンは、神聖な日を迎えたかのように、一種敬虔な気持ちに満たされていた。上映は2回ともシカゴ・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティバルの第1夜に割り振られていて、前売券を手に入れることができたのは非常にラッキーだったのだ -- チケットは2回とも売り切れだった。僕が会場に到着した時にはすでに驚くほどの長蛇の列ができていた。そのほとんどがファイブ全盛期には彼等を見たことがないはずの若者だったが、何かアクションを求めて来ていることは明らかだった。

待ち時間が長くなるにつれてみんな苛立ち始める。上映機材に何らかの故障があったらしく、スタッフはなんとか開始時刻の10時半に間に合わせようと必死で修理していた。ついに満員の客が会場内に誘導され、みんな通路や床、とにかくありとあらゆる場所に陣取って照明が落とされるのを今か今かと待った。劇場支配人が現われて開演の遅れについて謝罪し、上映機材に不具合があるため時折画面が多少乱れるかもしれないと断った。監督のデビッド・トーマスも短時間ステージに出て来て、劇場側に適切な機材が設置されていないことに対する失望の意を述べ、上映のクオリティーに不満がある人は後で払い戻しを受けて欲しいと申し出た。結局そういう客は出なかったばかりか、あの晩、あの劇場に火災が発生して周り中火の海になったとしても、映画の最後を見届けるまで誰1人としてあの場を離れなかったと思う。

ついに照明が暗くなって観客から歓声が上がった。ザ・モンクスのドキュメンタリー・フィルム「トランスアトランティック・フィードバック」の予告編が始まり、ロックンロール気分が盛り上がる。あの予告編を見るまでモンクスというバンドを聴いたことは一度もなかったが、ジェネシス・P. オーリッジがファンだと言うのだから面白いバンドなんだろう。テープの切り替えで少し間があいた後、本編が始まった。グランディ・ボールルームが現在の荒れ果てた姿で現われ、やがてかつての全盛期の映像へ移り変わり、クレジットが映し出されると観客は大きくどよめいた。ファイブのメンバーが1人1人、今まで見たこともない映像と写真で紹介されていくたびに方々で拍手喝采が起こる。映画は、ブラザー・ウェイン・クレイマーがデトロイト市街をデカいアメ車を走らせながら、MC5の仲間と過ごした過去を語る場面から始まる。デニス・トンプソンがミシガン州リンカーン・パーク・ハイスクールへと観客を案内しながら昔の日々を語る。マイク・デイビスが、彼が今故郷と呼ぶアリゾナの砂漠を背景に断続的に姿を現わす。今は亡きロブ・タイナーとフレッド・スミスのインタビューの映像も時折挿入され、このドキュメンタリーの完璧度と正確さが高まる。

バンドのメンバーによる強烈な証言の合間には、きのうMC5のファンになったばかりの人間でもブッ飛ぶような映像と写真がゴマンと映し出される。そのほとんどが全くの初公開であり、ライブ映像はすべて息を飲むようなものばかりで、どれが一番印象的かと言われても選ぶのが難しいけれど、ファイブがかつて毎週日曜日アン・アーバーで行っていたフリー・コンサートの映像のうち、ウェスト・パーク・バンドシェルで行ったライブ映像が特にすさまじかった。演奏しながらコーラス・ガールみたいに1列になっていっせいにキックする、その迫力だけでも見る価値がある。68年の民主党大会の時シカゴのリンカーン・パークで行ったコンサートの実写は、フェスティバル参加者を装った偽装警官が撮影したフィルムということもあって特に興味深かった。しかし中にはあっけに取られるようなシーンもあった。ウェインとフレッドが2人だけで出かけていったヨーロッパ・ツアー中、フィンランドで行われたギグで2人がなんとかステージを取り繕おうとしてやっていることとか、フレッドが銀ラメのスーパーマンみたいな服装(デニス・トンプソンが映画の中で「キッスのコスチュームはあれからヒントを得たのさ」とバカにしたように語っていたが)で登場する場面なんかは開いた口がふさがらない。

インタビューはと言うと、その内容はどれもハードだったが、真摯に語るメンバーの言葉にはさまざまな感情が込められていた。虚飾はなく、ドラッグ使用に関してもそれを美化するような発言は全くない。質問はどれも辛らつで個人的な内容に及んでいたが、メンバーは皆非常に誠実に答えているので、見る者はMC5を単にひとつのバンドとしてだけではなく、人間として理解するに至る。バンドが終焉を迎えようとしていた状況を語る時、ウェイン・クレイマーは完全にカメラを忘れている。それまでメンバーが口にしたことのない事実までが語られていると思われる部分が随所にあった。

エネルギッシュな実写映像と虚飾のないインタビューの連続は見る者に疲労さえ感じさせる。この映画を製作するために莫大な労力と時間が費やされたことは明白で、これほどの内容を2時間の作品に凝縮するのがいかに難しい作業だったかは容易に想像できる。制作者の期待通りの仕上がりであるかどうか僕は知らない、しかし観客の予測をはるかに上回る作品であることは確かだ。「ロッキー・ホラー・ショー」を除き、上映終了後に観客からこれほどの拍手喝采が上がった映画は僕が知る限り他にない。ロッキー・ホラー・ショー同様にこの映画も最終的には独自のカルト的ファン集団を形成することになるだろう。ホラー・ショーの観客は登場人物のコスプレで集まるのが常だが、このMC5ドキュメンタリーの場合は、ジョン・シンクレアと同じヒッピー・ルックに身を包んで真夜中に集まるってことはないにしても、今までMC5を実際に見たことのない僕らのような人間が、経験したことのない過去を現代で体験するひとつの手段になるだろう。

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To Creem article by Brian J. Bowe