DKT/MC5ワールド・ツアー中に書いた7月のレポート以来5ヶ月ぶりのクレイ マー・レポートは、ニューヨーク・ダウンタウンの先鋭的ライブ・スポット、 「ニッティング・ファクトリー」売却をめぐるミュージシャンたちの抗議行動に 関する報告である。ニッティング・ファクトリーの名を知る人は多いと思うが、 そこでこのような事態が繰り広げられていたとは、ウェインのこのレポートを読まなければ、知る人はほとんどいなかっただろう。


クレイマー・レポート No. 24(2004年12月17日)

ニューヨーク・シティー。仕事の打ち合わせで今週ニューヨークに来ているが、とにかく寒い。ハンパじゃない寒さというものを最後に味わってからずいぶん経つが、まさしくこういう天気から逃れたくて南カリフォルニアに移住する決心をしたんだ。

偉大なプロデューサーである親友のハル・ウィナーと電話で話す機会があった。すると彼は、ダウンタウンである抗議集会が開かれていると言う -- 行ってみるか?抗議?俺の専門分野だぜ!

ニッティング・ファクトリー前でデモが繰り広げられているというので、レオナード・ストリートでハルと落ち会った。クラブがあるブロックの角を曲がる と、トランペット、トロンボーンやドラムの音に包まれた。すばらしく楽しいサウンドだ。マンハッタンのビルの頭上を超え、ウォール・ストリートに通じる街路を響き渡っている。およそ100人ほどの人々がプラカードを手にレオナード・ストリートをデモ行進していた。ニッティング・ファクトリーの経営陣がクラブを売却し、その際そこで働いていた従業員もいっしょに売り払ってしまった というわけだ。そして彼らの多くはクラブのレーベルと契約していたアーティス トだった。

聞いたところによれば、経営者は在庫として残っていたCDをほぼ全て処分してし まったという。本来それらのCDは、ニューヨーク・ダウンタウンの実験的音楽 シーンの核となってそれを支え活力を与えてきたミュージシャンに属するもので あるのに。ニッティング・ファクトリーはかつて、クリエイティブな音楽シーン の偉大な拠点だったのだ。いつも同じだ。物事の中心は決して固まらない。いつかバラバラに崩壊する。

そして例によって、ミュージシャンの貢献に対しては何一つ考慮されなかった。 全てのレコーディング契約が一瞬にして無に帰した。間違っている。よくあることだが、絶対に間違っている。だから彼らはおめおめと引き下がらなかった。俺の旧友であるマーク・リボット、そしてこのあたりを拠点に奴とプレイしている仲間たちでこのデモを組織し、自分たちの権利を守るために立ち上がった。その場に居合わせ、参加することができたのはエキサイティングですばらしいことだった。

マークはクラブのまん前にデカいネズミの人形を置いた。「デカい」って俺が言うのはほんとに巨大だって意味だ。6メートル以上もあっただろうか、ニッティ ング・ファクトリー経営陣の本性をミュージシャンたちがどう見ているかをそれは表現していた。愉快な社説ってところだ。

猫に扮したプレイヤーたちは行進しながらゴスペルやニューオリンズ・ジャズを ゆったりと演奏し、その合間に時々ニューヨーク市音楽家労働組合第802支部 書記長のスピーチが行われた。多くのミュージシャンや市の職員が公正な処置を 求め、アーティストの側について彼らの権利を主張していた。リボットは1,2 曲演奏し、俺も抗議の印に何か歌うよう求められた。で、デモ参加者のために俺 は「約束の地で破られた約束」(訳者注:歌詞 ミック・ファレン)を歌った。 「契約は破られ 街は寒い 約束の地で」 という箇所はまさしく参加者たちの胸を打った。俺はデトロイトとロサンジェルスのミュージシャンを代表してスピーチする名誉を与えられ、俺たちは彼らと100パーセント堅く連帯すると述 べた。結束は力だ。

抗議行動を続けているうちに、このデモに動かされてニッティング・ファクト リーの経営者がミュージシャンと交渉を開始し、何か善後策を講じる意思を示し たらしいという報告が入った。デモは午後中ずっとそこに留まり、皆プラカード を持って互いに心地よい連帯感を味わった。水曜日の真昼間、零下7度の寒さの 中でトップクラスのミュージシャンの一団が路上に集まっているというのはよく あることじゃない。我々は互いに情報や電話番号を交換し、ニューヨークで活動 する卓越したパワフルなボーカリスト、ディーン・ボウマンが即興で作った抗議 の調べを彼といっしょに大合唱した。シド・ストロウも来ていて、俺の新作で歌 うことを約束してくれた。猛烈な寒さの中で数時間待った後、組合書記長が経 営側と合意に達したと告げた!関係したミュージシャン全員に現金が支払われ、 まだ残っているCDを1枚2ドルというまずまずの低価格でミュージシャンが買い 戻せることになった。勝利だ!

実にすばらしい瞬間だった。ミュージシャンが一丸となって結束し、コケにされてたまるかと路上で抗議を表明した。労働者としてのミュージシャンが泣き寝入 りするのは珍しいことじゃない。しかし俺がこれまで関わった現実的行動で初め て、今回はいい結果に直結したんだ。決起したニューヨーク・シティー・ダウン タウンのブラザー・エンド・シスターズに脱帽だ。

労働者に力を。

平和な新年を迎えてくれ。

ウェイン
2004年12月
ニューヨーク・シティーにて

Back to top / クレイマー・レポート・リストに戻る