当ゲスト・ブックに「権力に刃向かう精神が最強にカッコいい」という書き込みを頂いたが、メイン・ストリームのロック・ビジネスに対する批判精神全開の今回のクレイマー・レポート。「スターを目指してロックをやるな」というメッセージは、どう受け取られるのか。


クレイマー・レポート No. 18(2003年8月26日)

毎週水曜日にベイクド・ポテトで行っているギグはすばらしい体験の連続だ。親しい友人たちと自宅の居間でプレイしているような感覚。2、3人目新しい奴らも混ぜて、誰かが食い物と飲み物を持ってきて、さあ楽しもうぜ!って感じだ。このくだけた雰囲気がとても心地よくなってきた。かつてナイトクラブで演奏されるライブ音楽は、こういうものだったんだろうと思う。俺の良きロック人生もここまで来ると、デカい会場でやるよりも小さなクラブでのライブの方が気持ちがいい。最近なんだか「ビッグ・ロック・ショウ」がブザマでうさん臭く思えてならない。自分がそういうライブをやらないせいかもしれないし、「ロック」な世界と張り合おうって気がないからかもしれない。とにかく、ベイクド・ポテトでプレイするのが好きだ。

メインストリ−ムのロック・シーンとは完全に隔絶しているショウだ。行われている場所が音楽ビジネスの中心地、ロサンジェルスであることを考えるとすごく不思議な事だと思う。敵陣の背後で活動するゲリラってとこだ。俺たちが水曜の晩にやってることは、ヒット・チャートやラジオやMTVとは全く何の接点もない。音楽を聴くことに喜びを見い出す人々のために音楽を奏でるという、いたってシンプルな行為だ。

特別ゲストはそれぞれ、独自のユニークな音楽の贈り物をもたらしてくれる。そしてその結果は常に予想外で、多くの場合すばらしい。そう、必ずしもいつもすばらしいってわけじゃない。惨澹たる脱線事故に終わる場合もある。だがこれのいいところは、怪我する奴は誰もいないってことだ。

だろ?最悪の結果ったってタカが知れてる。

曲がちゃんと終わらない?あったね。

コード・チェンジをドジった?むろん。

ゲストの組み合わせが悪い?知るもんか。試してみようぜ。

先週はグレッグ・ジンといっしょにやったが、大いに感心した。とてつもなくいい奴。ブラック・フラッグの創立メンバーとして、そして画期的自主レーベル、SSTの設立者として尊敬されている男だ。彼の音楽スタイルが型破りなことは知っていたから、いっしょにやってみたいと思ったんだ。そして物凄く楽しめた。

ギグが終わった後教えられたんだが、グレッグが全く初顔合わせのミュージシャンとの即興セッションに参加したのはこれが初めてだったそうだ。そういうことこそ本物のアーティストの資質だと思う。冒険してみる。勇気がいることだ。グレッグは1曲1曲、エネルギッシュにプレイした。俺たちとリスクを分け合ったんだ。ある時は「かたち」を持ち、ある時は(少なくとも一般的な意味でのフォームは)持たない音楽。驚きのエッセンスとしてデビッド・ワズをハーモニカに、ハント・セールスをドラムに加えれば、そういう結果は目に見えてるというわけだ。

こういうキワドイ奴らといっしょに、グレッグはオープンで幅広い音楽性を示した。自分らのアルバムもロクにライブで演奏しないバンドが多い昨今の音楽シーンでは非常に稀なことだ。今のバンドの多くはライブをやる場合でも、いつも全く同じセット、同じ曲を同じアレンジで毎晩のように披露している。「予想外の展開」って頭痛のタネを封じ込めるためさ。ライブ音楽に対するこういう予定調和主義は音楽パフォーマンスの創造性を殺している。オーディエンスとアーティストをバカにする行為であり、ライブ・ショウをコンピューター・ゲームやMTVのレベルにおとしめるやり方だ。いや、「コンピュ−タ−・ゲ−ム」ってのは撤回しよう。そこらのいわゆる「ヒット・バンド」のライブより、コンピュ−タ−・ゲ−ムの方がまだインタラクティブだよな。

先週末を俺はマイケル・デイビスと過ごすことができ、とても楽しかった。マイケルとは最近連絡が密になった。この春ロンドンで例のリ−バイスのソニック・レボル−ションのショウを一緒にやったわけだが、またやるかもしれない。ロサンジェルスで開催された、アリソン・アンダ−ス主催の「ドント・ノック・ザ・ロック・フィルム・フェスティバル」でMC5のドキュメンタリー・フィルムが上演されたので一緒に観に行った。

上演終了後、フェスティバルの一貫としてニッティング・ファクトリーでライブをやった。ダグ・ラーンとエリック・ガ−ナ−に他の予定が入っていたのでバンド・メンバーはいつもと異なり、ドラムとベースにはそれぞれブロック・エブリ−とトレント・ストロウという卓越したプレイヤー2人が参加した。トレントとやるのはこれが初めてで、彼をバンドに迎えられたのは嬉しかった。トレントは第1級のベーシストで優秀なボーカリストというだけじゃない。奴には心底感心した。ブロックのドラミングは相変わらず凄い。9月のベイクド・ポテトのレギュラー・ライブも彼が叩くことになっている。この夜ベーシストには不自由しなかった。特別ゲストとして、マイケル・デイビスが加わってMC5のナンバー「アメリカン・ル−ス」をプレイしたんだ。ハードコアなデトロイトのベ−シストだけに可能なマイクのベース・プレイ -- 会場は熱狂した。

「ロックの真っ赤な嘘」ってものが最近よくわかってきた。そしてこのとてつもない欺瞞からますます離脱していく自分を感じる。

映画の脚本を書いてる友達がいて、この間2人で話していたんだが、執筆、楽器の練習、あるいは絵を描いたり、その他生活の中心としていること何でもいい、その活動の合間にできる仕事にはどんなものがあるだろうって話になったんだ。奴はインターネットで労働統計局のウェブサイトを見せてくれた。もしこの世に存在する「仕事」ってものに興味があるならここを覗いてみるといい。プロの歌手、ミュージシャン、アレンジャー、作曲家といった職業カテゴリーが並んでいる。だが「ロック・スター」ってカテゴリーはない。要するにそういう仕事は存在しないからだ。仕事じゃないからだ。「ロック・スター」のレベルに到達する人間はあまりに少数で、プロのバスケットボール選手や野球選手になれる確率より低い。おそらく100万分の1くらいの確率だろう。この夢を追う人間の中で、いったい何人がそれを達成する?何人がブルース・スプリングスティーンになれる?エミネムになれる?何人がミッシー・エリオットに?なのに何人がこの夢を追っている?このかなわぬ夢を?

「真っ赤な嘘」のこれがひとつの要素だ。もう一つの大嘘は、もしヒット(レコード、本、映画、テレビ・ショウでも何でも)を一本出したら、問題から解放され人生が全てオ−ケイになる、ってやつだ。名声と成功とカネが、何であれ自分のうまくいっていない部分を是正してくれると。だがそうじゃない。そういうものは悪い部分を是正してくれるどころか、悪い部分全てをますます悪化させるんだ。俺は自分の経験から言ってる。そして音楽、テレビ、スポーツや映画の分野で才能を認められた若者の人生にこのことが起こるのを何度も何度も見てきた。彼等は自分を見失い、ウヌ惚れ、起こっている事の深刻さに気付きもしない。そうやってドラッグと酒とセックスの問題を抱え込み、助けを求める若者を俺は本当に不憫に思うし、奴らの気持ちがわかる。彼等の周囲には「『お前だけは』特別だよ!、お前には世間のルールも通用しない、ルール?小市民じゃあるまいし!」って、そうささやく人間しかいないんだ。それが問題なんだ。

エンタ−テインメント業界で働く事自体には、何ら悪い点はない。いろんな業界があるわけだし、そこで仕事に従事する人間がいて、テレビに出演していようが映画に出ていようが彼等は労働者であり、彼等が行っている事は労働だ。

だがこの欺瞞の力は強大で、ありとあらゆる誘惑的手段で大衆に売込まれ、無数の人々がそれを信じている。ロサンジェルス空港には毎日のようにこの夢を追う数百人の人間が到着する。問題は、「フリーのアーティスト」という状況が意味するところを、彼等の誰1人として理解していないということだ。だがむろん、彼等は「成功」するつもりでやって来る。それが自分たちにとって本当は何を意味するかも知らずに。悲劇的な結果に終わらなかったら驚きだ。死者の数は傷を負った人間の数と同じくらい多いんだ。

しかし俺が何を言ってもムダだろう。体験に基づいて誰が何を言ってもムダだろう。この夢はあまりに強烈で、この嘘はあまりに強力で、問題からのそんな解放はあまりに魅惑的だから、誰もそれを理解しない。

ショウ・ビジネスは、それをせずにはいられないから、という理由でのみ従事すべき職業だ。その仕事を愛するからそれをやる。生活の足しにはなるけれど、その生活は辛くタフだ。安定を求めて、あるいはカネがきちんと払われることを期待してこの職を選ぶな。そんなものこの職業から得られはしない。そして何よりもまず、スターになることを求めてこの職を選ぶんじゃない。その代償はあまりに大きい。仲間から尊敬をされる事を目指す、あるいは実際にそれを得る、それは全然悪いことじゃない。しかし、それを超えるのはトラブルの素だ。音楽を愛するから、歌を書くのが好きだから、楽器を演奏するのが好きだから、みんなの前で歌って踊って完璧バカをやってウケルのが好きだから、それをやれ。生まれながらの目立ちたがり屋だからそれをやれ。

だがそれ以上のことを期待するな。超絶と美の瞬間がやって来る。歓喜の瞬間が訪れる。しかしそういうものは、オーディエンスと、そしてアーティストだけに許される贈り物だ。その瞬間はあっという間に去ってしまう。嘘に惑わされるな。

祝福を。
ウェイン

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