ヨーロッパ・ツアーもそろそろ終わりに差し掛かってきた。プロモーターに関するウェインの記述が興味深い。確かに、アメリカやヨーロッパの年配のロック・ミュージシャンが書いた回想録などを読むと、プロモーターはたいがい「悪役」で、むろんプレイヤーの側は一定の礼儀をもって接しはするけれど、時として全く演奏したくないセットを強要されたり、音量を下げさせられたり、利害は完全に相反するビジネス・ピープルとして描かれている場合が多い。


クレイマー・レポート No. 15(2003年6月17日)

さらば、フランス。

きょうは俺達のドラマー、エリック・ガードナーの誕生日だ。

フランス最後のギグ2回を終え、ストラスブルグから出発した。前夜プレイした町、ナンシーではいいオーディエンスに恵まれ、オーケストラのメンバーたちの参加もあってすばらしいショウを行うことができた。

今回のツアーでは数名の実直なプロモーターと組んでいる。中でもナンシーで俺達を迎えてくれたジャネットは最高だった。彼女手製の家庭料理にありつき、しばし普通の人間としてのひと時を過ごすことができたんだ。俺達が最も必要としていた時間だ。長時間のドライブ、深夜のギグ、早朝の出発という日々が続き、みんな少なからず消耗していた。睡眠不足というのは本当にこたえるものだ。

このツアーで一緒に仕事をしているプロモーターたちは、俺にとっての新人類だ。今回ギグをブックしている連中の大部分は、真に音楽を愛する人間であり、自らの信念に基づき、きちんとした仕事をする真摯なプロモーターだ。これまで俺が付き合ってきた非人間的で利益優先の連中とは全然違う。あるアーティストを品性正しい人間が招聘し、プロフェショナルかつ人間的な方法でいいショウを開催できるという、そのことを彼らは証明している。今回のツアーで俺達をサポートしてくれているあのプロモーターたち全員に、この場を借りて礼を言いたい。

ステージは相変わらずもの凄い暑さだ。1回のショウで驚くほどの水を飲んでいる。自然に備わった冷却システムというわけだ。

昨晩のギグはドイツとフランスの国境近くの町、ストラスブルグで行われた。ロックの上演にコミュニティー・センターが使われているんだ。すごいことだがヨーロッパでは当たり前に行われている。ツアーで訪れるあらゆるジャンルのバンドのギグを、地方自治体が支援している。地元の、地域の、そして外国からやって来る、ありとあらゆるスタイルのバンドがそこでギグを行うことができる。想像してみろよ - 「政府が文化を支援する。」たとえ単に楽しむためであろうと、若者が積極的に何かをやろうとしている時に、手を差し伸べ場所を提供する、その役割を地方の行政府が実際に果たしているんだ。

アメリカに比べてヨーロッパの感受性がいかに優れているか、これもその1例だ。アメリカではありとあらゆる機会にアートへの予算がほとんどゼロにまで削減される。学校では心理学教育もない、アートの授業もない、音楽の時間もない、そのくせカフェテリアでは、マクドナルドやピザ・ハットがしっかり営業している。実際、学校で教育される内容はどんどん減らされているんだ。それを後押ししているのがブッシュ政権だ。奴がテキサス州知事時代にやったことを調べてみるがいい。

「約束の地で 夢は崩壊し/約束の地で 代わりに監獄が建てられる」
(訳注:アルバム "Dangerous Madness" 収録の "Something Broken in the Promised Land [Farren/Kramer]" より)

このコミュニティー・センターにはスペースが2箇所あって俺達は小さい方でプレイしたんだが、広い方ではブラジルから来たセプルトゥラというグループがギグをやっていた。彼らが行っていたことをコンサートと呼ぶのは躊躇する。というのも音楽的パフォーマンスという印象を受けなかったからなんだ。確かに音楽の要素は持っている、しかし、ある意味で従来の音楽の概念を超越している。「サウンド・デザイン」とでも呼ぶべきか。ミュージシャンは6,7百人の青年達がヘビメタの儀式を体験する、そのイベントのセット、あるいはサウンド・トラックを提供するというわけだ。最前列の若者達はヘッド・バンギングしながら髪と両腕を宙に振り乱して上下にジャンプしながらおおむね楽しくやっていた。少し年長の連中は後ろの方に立って、自動車事故を見物するヤジ馬みたいな感じでそれを見ていた。ああいうイベントを目撃するのもまた一興だ。俺が普段目にする機会のある光景じゃないし、ああいうことが行われているというのを知ったのは面白かった。

というわけで、フランスとはお別れだ。本当にすばらしい国だった。フランスのみんな、ありがとう、また近いうちに会おうぜ、元気でな。

これを書いている今は、ドイツ国内をハンブルグに向かって北上している。これからスカンジナビアに渡ってツアーを続ける途上、ハンブルグで1泊することになっている。フランス中部からデンマークまで長い道のりだが、幸いこの1日は移動日でギグはないから楽だ。

きょうはアウトバーンで数時間渋滞に巻き込まれた。交通は完全にストップし、覆面パトカーの一団が俺達の前方を凄いスピードで轟音と共に通過して行った。両車線とも止められ、その後突如動き出したから、前の方で警察が動員される重大な事件が起こったに違いない。おかげで予定は3時間も遅れたが、今晩ギグはないから問題ない。

きょう車内のプレイヤーでかけていたのは、ユニオン・カーバイド・プロダクションズ、チャールズ・ミンガス、ソニック・ランデブー、アーチー・シェップ、そしてブラック・キーズ。

神の祝福を。
ウェイン

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