クレイマー・レポート、フランス編である。ウェインがフランス/ギリシャ系であると、ここで初めて知った。フランス人/ヨーロッパ人の人生観や歴史観に触れているが、自分も以前フランス人男性と同じオフィスで働いていた事があったので、彼がここで述べている事はすごくよくわかる。

クレイマー・レポート No. 12 (2003年6月9日)

ビバ・ラ・フランス

ボルドーのチケットは完売、そして全ての意味でこの町は本当に熱かった。バンドのパフォーマンスはすばらしい。ダグ・ラーン、フレディ・クロン、そしてエリック・ガ−ドナ−は卓越したミュージシャンであり、毎晩彼等とステージに上がるのが嬉しくて楽しくてしょうがない。歌も回を追ってよくなってきているし、インプロビゼーションも毎回変化して面白い。フィンランド人の友人、マーカス・ノーデンストレングが言うように、「いいデキだ。」テクニカルな面でもなんとか問題を解決できたところで、サウンドは安定したいい状態を続けている。

とにかく「ホット」っていうのがボルドーの夜を描写するに最もふさわしい言葉だろう。キャット・クラブって所でやったんだが、あの晩の室温はフロアでもゆうに摂氏35度を越えていたと思う。それがステージの上となると、ライトに照らされて少なくとも45〜6度になっていたに違いない。遥か昔はともかくとして、俺は長い間そんな高温の中でプレイしたことがなかった。デトロイトのグランディ・ボールルームでは確かに夏になるとあの位の室温になっていた。ただ当時の俺は20代だったってことだ。長年この仕事をしてきて、今回はプレイするペースが重要だとわかっていたから、自分が鳴らしている音に集中し、仲間の音を聴き、自分が歌っている事に神経を傾けた。とにかくそれで精一杯、踊らなかったし、ジャンプもしなかった。それで1時間40分という長いセットを完遂したんだ。(弦を張り替えるので少し中断したが。)エリック・ガードナーは熱気をものともせずにハードにドラムを鳴らし、6リットルもの水を飲み尽くした!

オーディエンスは俺たちがやっている事に対し実にオープンだったから、すごく楽しくプレイできた。この日は他にもテキサスのオースチンからザ・ハード・フィーリングス、テネシー州メンフィスからザ・クール・ジャークスというバンドが出演したが面白い連中だった。両バンドともメンバーが明るく人なつこくて、気持ちのいい連帯感が味わえた。ザ・ハード・フィーリングスの方は翌晩のパリで俺たちの前座を務めた。リーダーのスクーリーはまったくもって王子様な奴だ。ボルドーのあの高温のギグの間、汗でずり落ちることなくサングラスを掛け続ける方法を奴は提案した -- ずり落ち防止ゴムバンドだ。この件は楽屋で大論争に発展した。つまり、サングラスをキメるためにゴムバンドをつけることが、いかにクールか(あるいはクールでないか)という議論だ。結論:ボー・ディドリーがつけていた。よって、つけてかまわない。長年にわたり常にサングラスを着用している人間はこういう問題をクリアしてきていると思うが、俺はまだ愛用し始めて1年ちょっとにしかならないから、いろいろ学ぶことがあるわけだ。

(余談だが、ボルドーのショウのプロモーター、フランシスは、1969年にフランス軍に入隊し、髪を刈られた時、その場所にはMC5の「キック・アウト・ザ・ジャムズ」がかかっていたそうだ。自分が創作した音楽が人々の人生のいろんな場面に登場するのは感慨深いものだ。)

いつもそうだが、パリはとにかく格別すばらしい。リラックスできる場所だ。俺はフランス/ギリシャ系だから、フランス人とは容姿に共通点がある。顔の造作が似ているんだ。思い込みかもしれないけれど、とにかく誰にもルーツはあるわけで、俺の遺伝子の半分はフランス人ってわけだ。1995年にツアーでパリを訪れた時には、着いたその日に地下鉄の爆弾テロがあり、それで「パリに爆弾が落ちた日」(アルバム "LLMF" 収録)が生まれた。この歌はずっとライブのレパートリーに入れているし、悲しいことに、今日でも同じ事件が繰り返されている。だから、この曲が生まれた場所でそれをプレイすることは全く自然の成り行きだった。言葉の壁はあったけれど、歌に込められているメッセージは伝わったと思うし、オーディエンスはサウンドにも大いに熱狂してくれた。もの凄く楽しいギグだった。

フレディ・クロンはあまりに熱演したものだから、キーボードの鍵盤を一つ壊してしまった。アイルランドかイギリスで修理できるといいんだが。ダグと俺はギグの後、現地の親しい旧友たちと夕食に出て、麺と海老を食いながら楽しい語らいのひと時を過ごした。政治、アート、歴史、戦争、音楽、そしてウィットに富んだたくさんの会話。正真正銘のアダルト・ワールド。

ヨーロッパのカルチャーというのはアメリカと全く違っていて、本当に魅力的だ。ここでは深夜までクラブやカフェで時間を過ごし、他人に全く警戒心を抱くことなく夜遅く街頭を出歩くのも全然普通のことなんだ。ありとあらゆる肌の色と国籍の人々、みんなひしめき合って生活してる。とてつもなく文化的生活。アメリカではほとんど味わうことのない経験。ヨーロッパではどの国でも、アメリカではニュースでイヤと言うほど耳にするような事件に対する恐怖感とは無縁に、若い女性が夜中の3時に1人で歩いているのを見るのも当たり前のことなんだ。アメリカがいかに未成熟で粗暴な国か、痛感させられる。

現在の社会情勢に対しても、ヨーロッパ人はアメリカ人より幅広い視野を持っている。彼らは同じ事が起こるのを何回も見てきたから、大多数のアメリカ人に比較して世界情勢の把握の仕方が成熟しているんだ。アメリカ人の大部分は、今世界で何が起こっているのか、ほとんど知らないし、自分の国の歴史にも疎く、ブッシュとチェイニーの軍事政権が実は何を画策しているのかもわかっていない。数ヶ月後、あるいは数年後には知ることになると思うが。ロクなことにはならないだろう。ヒドいことになってるだろう。

アイルランドへ向かう途上、これを書いている。ダブリンで1回、イングランドで4回ギグを行う。最終日は俺のもうひとつの「遠きにありて想う故郷」、ロンドンだ。その後再びフランスに戻って3回行い、その後スカンジナビアへ向かう。

また順次報告する。

神の祝福を。
ウェイン