ウェイン・クレイマーのエピタフ三部作第一弾。ブレット・ガーウィッツが予告した通り、ペニー・ワイズのランディ・ブラッドビューリー、ランシドのブレット・リードら多数のプレイヤーが集結した。ガーウィッツ自身も加わっている。ライナー・ノーツを書いたのは他でもないヘンリー・ロリンズ。ミック・ファレンも多くの歌詞を提供した。メディアも「MC5のクレイマー」の復帰を大きく取り上げ、とにかくパンクのゴッド・ファーザーがメインストリームに復帰したとあって「鳴り物入り」の観があるリリースだった。この後しばらくしてスマッシュの招聘で来日ツアーまでも行っている。
全体としてエッジのきいたウェインのギターを前面に押し出した音作りになっているが、歌詞も秀れて、ミック・ファレンとウェインの太い知性が感じられる。エピタフは1の Crack In The Universe のプロモ・ビデオを制作したが、監督はジョニー・サンダースの伝記映画 Born To Lose を制作したレック・コワルスキーである。2のJunkie Romance はドラッグに走る若者に向けられたメッセージ・ソング。しみじみとしたバラードに乗せて歌われる。現在でもウェインはこの曲を必ずと言っていい程セット・リストに加えている。アンチ・ドーピングをうったえていくことは彼が自身に課した義務なのだ。
4のPoison は、もともとMC5時代の3枚目アルバム"High Time "に収録されていた曲。10の「シャークスキン・スーツ」だが、「シャークスキン・スーツって何?周りの人にも訊いたけど分からなかった」とウェインのホームページに投稿していたアメリカ人らしき若者がいたので、一応付記しておくが、「シャークスキン」とは、鮫の表皮のような独特の「照り」感のある表面が少しざらざらした生地。
また、スポークン・ワード/フリー・ジャズのトラックが2曲(6と11)入っているのも注目される。6はフロリダのキー・ウェストに住んでいた当時の体験を語ったもの。11曲目は隠しトラックで、作家チャールズ・ブコウスキーへのオマージュ。ウェインがブコウスキーを信奉者であることをこれで初めて知った。自分も好きな作家なので嬉しかった。酒と女と競馬とロサンジェルスをこよなく愛したブコウスキーは、日本では「パンクな」作家ということになっていて、イカニモそれっぽく対訳されているけれど、彼の文体はむしろ訥々として淡々とシンプルで、登場人物の会話は禅問答のようである。
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