海外で、ウェイン・クレイマーを批判する勢力は、けっこう大きい。日本におけるより情報量が圧倒的に多いせいだと思うが、彼らはMC5ファンや関係者の中でも消息通の人々であり、2003年のリーバイスとのパートナーシップや、ウェインがドキュメンタリーDVDのリリースにストップをかけたこと、 DKT/MC5としての再結成や、ロブ・タイナー未亡人の訴訟、フレッド・スミスに関して語った昔のコメントなど、とにかく音楽以外の問題を取り沙汰してインターネット上で大々的にクレイマー批判を繰り広げてきた。他のロック・ミュージシャンが行っても全く問題にされない同じことをウェインがやると非難轟々なのは、やはり彼が昔在籍したMC5というバンドの特殊性だろう。アンチ・クレイマー派の批判がMC5ファンの気持ちとして理解できる場合もある。でも基本的に反感を覚えるのは、結局そういう人々はパソコンの前に座ってクレイマー批判をタイプしているだけだからだ。少なくともウェイン・クレイマーは、聴く者の魂を揺さぶるギターを弾くことができ、打ちひしがれた精神を癒す歌を書くことができ、いつか勝利することを信じて地味な啓蒙活動を黙々と続けているのである。ストーンズがカトリーナ被災地に1億円も寄付したのは尊い行為だと思う。でもそれは、莫大な富を持つ者がマネージャーか弁護士か会計士か知らないが、その人に電話1本かければ済むことなのだ。
しかしウェイン・クレイマーは、自らギターを手に人々の前に立つ孤高の兵士である。かつてウェインのホーム・ページにあった掲示板が閉鎖されて久しい。そこで跳梁跋扈していたMC5「ファン」からの非難に対して彼は申し開きや反論することをやめ、現在は自分が信じることを一つ一つ、寡黙に実行しているだけである。ボブ・ディランは言った。「俺の歌が好きだからって、アンタに借りがあるわけじゃないぜ。」MC5ファンに対してウェインも同じ気持ちだろう。

ウェイン・クレイマーとしてのソロ・ライブを見るのは2002年以来3年ぶりだったが、ロックと秀逸なジャズに彼の説得力ある歌声をスポークン・ワードで重ねたすばらしいパフォーマンスで、若者から年配のオーディエンスまで惹き付ける力を持ち、かつ彼が意図していた通り、政治や日常生活における問題を提起した充実したライブだったと思う。

ステージを降りた彼に友人たちが話しかける。マーガレットにも再会できた。2月のロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホール以来だ。翌日4人で夕食に行く約束をして別れた 。

その後、アンジェラがマネージするバンド、The Lords of Altamont のライブを見に車で20分ほどのグレンデイルという町に行った。住宅街のような場所にある The Scene という小さなライブハウスで、到着すると前のバンドがまだやっていたが、アンジェラとマイクはすでに来ていた。

不見識な私はロサンジェルスのコンテンポラリーなバンドなど知る由もなく、The Lords of Altamont も全然知らなかったが、アンジェラが見込んだだけのことはある実力派のすばらしいバンドで、L.A.ガレージ・ロック・シーンの層の厚さを感じさせた。ギターとキーボードが交互にリード・ ボーカルを担当していたが、2人ともカッコいい若者で、キーボードの方は明らかに若き日のピート・タウンゼントを意識したルックス。クリエイティブマンあたりが日本に呼んだら女子のファンも大勢つきそうだ。持ち時間より前にセットが終わってしまい、ステージ上で少し狼狽していたが、突然マイクをステージに上げて「キック・アウト・ザ・ジャムズ」をやることに。マイクは相当びっくりしていたが、思わぬボーナスにオーディエンスは大喜び。 マイク・デイヴィスは60歳とは思えぬカッコよさだった。
翌日の夜、マーガレットとウェイン、私とケビンの4人で夕食に出かけた。ケビンは前日のウェインのライブの感想を熱っぽく語り、ロサンジェルスでは上質のフリー・ジャズをライブで提供する場所が少なく、昨晩はすごく楽しめたと言うとウェインはとても嬉しそうだった。「最近見たライブは何か」、「最近いいバンドを見つけたか」、などの質問を受けた。そう言えば、このホームページでも触れている、青年ウェインのバンド活動を全面的にサポートしてくれたパワフルなクレイマー・ママは健在だそうで、最近デトロイトからロサンジェルスの老人ホームに呼び寄せたので今では頻繁に会うことができて嬉しいとウェインが語るのを聞き、温かい気持ちになった。とても楽しい夕べを過ごし、最後は「また近いうちに世界のどこかで会おう」と言って別れた。
翌日はデヴィアンツのミック・ファレンと夕食。ウェインから「ミッキーに れぐれもよろしく伝えてくれ」と言われていたので伝えると嬉しそうだった。これを書いている今はもう終了しているが、9月に原宿のトーキョー・ヒップス ターズ・クラブで予定されている公演をとても楽しみにしていた。ウェイン・クレイマーと同じように、ファレン氏もアメリカの政治の現状や地球環境を憂える1人で、彼の場合は時事評論家でもあるので、アンチ・ブッシュや環境問題についての論説を執筆しながらペンで闘っている。来日公演は1回きりのライブだったが、最後に行われた公開インタビューの中で彼は、我々がいかに「日増しに破壊されていく天体」に住んでいるかを述べ、「我々アーティストは、自分のスキルを『武器』として切磋琢磨し、音楽、ヴィジュアル、言葉、そしてディジタル・ アートを変革の道具として使用し闘いに加わるべきだ。今が最後のチャンスかもしれない。」と訴えた。

翌日帰国の途についた。今回はマイク、ウェイン、ファレン氏3人とゆっくり話 ができて充実した旅だった。特に主目的であったウェイン・クレイマーのライブでは、DKT/MC5でMC5時代の曲をやっているのでは伝わってこない、音楽と社会と人生に対峙するウェイン・クレイマーの姿勢を目の当たりにし胸が熱くなった。3年前にアダルト・ワールド・ツアーで聴いたライブよりさらに円熟し、進化し、鋭さを増した彼のソロ・パフォーマンスを、日本でも聴いてもらえる日が来ることを強く望む。

2005年10月 ウェイン・クレイマー・フリー・ライブ・レポート 完

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