1977年、ロブ・タイナーは英NME誌の招きでイギリスを訪れた。パンク/ニュー・ウェーブに絶大なる影響を与えた人物で、しかも当時のイギリスのロック・シーンを客観的に考察し、レビューを執筆できる人間として彼が選ばれたのである。

記事は77年10月1日号に掲載された。持ち前の寛容さと人なつこさで積極的に取材を重ね、鋭い感受性と詩人の考察を混じえた面白いレビューである。著作権の問題でここに対訳を掲載できないのが残念。

最初に訪れたのはジェネレーション・X のギグだった。パティ・スミスやラモーンズらアメリ・パンクに比べて、ブリット・パンクがよりルックス重視であることを指摘(「イギリス人は過去も現在も、『どのように装うか』を気にしてきた。パンクにおいても彼らはすっかりメカシこんでいるのだ。」)ビリー・アイドルの音楽については、そのエネルギーを評価しながらも「一次元的」、歌詞もベイビー・トークで特に目新しさはないと評している。

彼がイギリスで初めて会った「真のパンク・ロッカー」はシド・ビシャスだった。ピストルズのビデオを見るため、バージン・レコーズを訪れた際、シドとナンシーもそれを見に来たのである。「完璧なロック・フェイス」、「口から発せられる言葉全てがいかがわしくて下品」、ロブは「直ちに彼が好きになった」という。そしてビデオを見た彼は感動する。ポール・クックのドラム、スティーブ・ジョーンズのギター、ピストルズの音楽はロブを魅了した。しかし彼が最も注意を引かれたのがロットンのパフォーマンスだった。ロブが記したジョニー・ロットン評はたまたま自分が考えていた事と同じで、しかも活字になっているのを見たのは初めてだった。日本に町田町蔵というパンク・ロッカーがいて(現在は町田康として社会復帰を遂げたが)、自分にとって町蔵とロットンは東西パンクの双璧だった。そしてこの2人共が非常に端麗な「貴族的」風貌であるという偶然が不思議だったのである。ロブはロットンを「妙にヴィクトリアン風」であり、「浪費と酒と麻薬と鞭で身を持ち崩した退廃的な英国貴族の雰囲気を持っている」と評している。

アメリカにおけるMC5と同じようにピストルズがイギリスのロック興業から閉め出されてギグが行えないことをロブは、「多くのバンドが経験した、権威の逆鱗に触れた者が遭遇する社会からの反動症候群」と評し、イギリスにおけるアンチ・ピストルズ勢力は国家権力よりむしろ「ママとパパ」であって、全てのロック・バンドにとってこの「圧力団体」は最悪の脅威だと述べている。

ドノバン・レッツ監督の映画「オリジナル・パンク・ロック・ムービー」を見に行ったロブは、怖いもの見たさでやって来た2人の「オールド・ミスの姉妹」に出会う。見終わって彼は2人をバーに誘い感想を求めた。彼女たちがいかに「パンク」を嫌悪したか(『あいつらみんな、動物よ!』)、ロブは姉妹が実は本能的に、パンクの非常に不吉な部分を感じ取っていると書いている。「もし、ヒトラーのニュー・バージョンみたいな人間が現れて、あの凶暴なエネルギーを巧みに利用し使いこなしたら、すこぶる都会的なバンパイアと狼男の軍隊が出来上がる。オールド・ミスの姉妹はもちろん全てが破壊されるんだ . . . 想像してみたらいい、深夜、ナイト・ガウンを身にまとったオールド・ミスがロウソクをかざしてベッドの下を覗き込んだら、トレンチ・ナイフを持ったシド・ビシャスがにやりと笑いかけたら?」イギリス社会にパンクが与えたインパクトというのは、まさしくこういう図だったのだろう。

ロブはブーム・タウン・ラッツのギグを訪れる。ジョニー・フィンガースが常にパジャマを着ているというのがいたく気に入ったようだ。R&Bベースのそのステージについてもボブ・ゲルドフを「若くエレクトリックなミック・ジャガー」と称して高く評価し、満足して帰路に着いた。

週末だけパンクになる「ウィークエンド・パンク」のことを聞いたロブは、「『ウィークエンド・ヒッピー』をやるよりずっと簡単だ。ヒッピーであることを示すためにはとても長い長髪が必要で隠しておけるものでもなく、そういう髪をして社会に同化することはまず不可能だった。. . . だがパンクの場合、ロンドンの高級レストランでランチをサーブしている給仕が、ボンデージ・ファッションに身を固めた危険なパンクである可能性もあるわけだ。」「真性」パンクであるためには失業していなければならず、そこがモッズと大きく異なる点であると指摘している。パンク・ファッションはガラクタの様式美であり、高価な衣装をまとったモッズとは根本的に違っていた。「失業していたからモッズになれなかった」というのは時々読む。

パンクの暴力性にも触れている。アメリカのロック・シーンにおいてもむろん暴力はあったが、少なくとも誰が、何故、暴力に訴えるのかはわかっていた、しかしイギリスでは何の理由もなく、突発的に凶暴になる、と書いている。またパンク、ヒッピー、テッズの抗争は、平和主義者のロブにとって「全くのミステリー」として映った。「麗しの都ロンドンでは、(a)髪が長い(b)髪が短い(c)髪がリーゼント、この3つの理由のうちのどれかで常に攻撃される危険にさらされている」. . . 「みんな『ロックンロール』の中で一つだということに彼らは気付いていない。テッズとパンクに至っては、社会の他のいかなるグループに対するより多くを互いに共通点として持っているのだ。みんな『ビッグ・ビート』の子供なんだ。ロックンロールを愛する者同士が争うのを見るのは本当に嫌だ . . . テッズのロックンロールがヒッピーのサイケデリアの歴史的ベースとなり、それがニュー・ウェーブのベースを作った。みんな共通のルーツを持っているのに。」

ロブはザ・パイレーツのギグにも足を運んだ。自分が最も好きなバンドの一つなので、ロブのパイレーツ評をドキドキしながら読んだ。絶賛。ミック・グリーンについては、テクニックとパワーを賞賛することはもちろん、「完璧なロックン・ローラーの風貌、リッキー・ネルソンばりのカッコよく皮肉っぽい笑い方でキマリだ。」スペンスとファーリーを「真にプロフェショナルで、とてつもなく強力なリズム・セクション」と評し、「マンチェスターまでの往復4時間の道程も全く苦にはならなかった、『出帆!ザ・パイレーツに栄光あれ!』」と結んでいる。

エディー・エンド・ザ・ホット・ロッズのギグを訪れたロブは、このバンドのミーハー的人気を支持する。「ロッズを『いい』と言うのがファッショナブルでないことは承知している。しかし僕はこのバンドを本当の意味で理解する。ビニールと剃刀を身にまとったパンク野郎にはわからないかもしれない、しかし女の子たちは本能的に知っている。」「このバンドに対し、音楽的にも人間的にも、大きな愛情を感じた」と記している。この後、彼らはシングル盤を1枚レコーディングしている。

また、あるバーでロブはキース・ムーンに遭遇した。ニュー・ウェーブについて感想を求めるロブに、「なんだそれ?!」例のキース・ムーン眉を嫌悪感で釣り上げながら彼は答える。「聞いたことねえなぁ、新種の病気かなんかか?宗教団体か?」「しばらく続けばなんか起こせるかも、でもそうは思えないね」理由を問うロブにキースは突然逆上して、「いいか、もしあいつらパンク・ロッカーが俺のドラム・セットにちっとでも近付いてみろ、殴り倒して解体業者に売り飛ばしてやる!俺は15年もこれをやってんだ、あいつらに何がわかる?!」という反応であった。

ロブがこのNME の仕事で渡英した時、「イギリスのパンク・ロック・シーンはすでに勢いを失いマンネリ化している」というのが一般的論調だったという。しかし彼は「その種の事を言われたけれど僕は全然気にならなかった。ブリット・ロック・シーンは僕が以前訪れた時よりずっと活気がありエキサイティングで、バンドはずっとホットで人も生き生きしてパブも活況を呈している、これがデカダンで腐敗なら、どこかで軍隊にでも入るか?」と結んでいる。

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