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ケン・シマモトが98年から99年にかけてウェインらのインタビューを行った時、フレッド・スミスはすでにこの世を去っていた。で、代わりのものを見つけようとウェブ上をあたってみたのだが、断片的なものが多く、まとまった形で内容も面白いインタビューが今ひとつ見つからないのだ。

そこで思い出したのが、1970年イギリスの「ストレンジ・デイズ」誌(No.1: 9月11-25日号)に掲載されたクリス・ホーデンフィールドによるMC5の記事である。"Rough Trade from Venus" (「金星からやって来たサディスティックなナラズ者」)と題されたその記事は、ツアーでイギリスを訪れたMC5メンバーとの断片的な会話を交えながら、バンド結成からシンクレアとの革命の日々、その結末に至るまでを物語風にまとめていた。そしてその中に、フレッド・スミスと、あるDJとの珍妙なやり取りが短いエピソードとして挿入されているのである。デニス・トンプソンは、かつてフレッドを「バンドの中で一番音楽によって行動していた奴」と評したが、フレッド・スミスの現実から超脱したような、ちょっとヌケた性格がよく出ていてユーモラスなエピソードなので、これを掲載することにした。直ちに転載許可を下さったホーデンフィールド氏に深謝。

文中「デビッド・フロスト」とあるのは、BBCの有名なアナウンサー/コメンテイター。日本語にも普通とても口にできない卑猥な単語というのがあるけれど、それを NHK のアナウンサーがアナウンサー特有の明瞭な発音で大声で口にする. . .という状況を想像して頂きたい。

なお、このエピソードを含めた当記事のダイジェスト版が、99年にジャングル・レコーズから出た「サンダー・イクスプレス」のライナー・ノーツとして採用されている。また、原文の完全なテキストは、リンク・リストにも入れた、 MC5Gateway で読める。


Excerpt from "Rough Trade from Venus" by Chris Hodenfield
Strange Days (Issue #1 September 11-25, 1970)
Reprinted by permission of the author

カ・ク・メ・イ

彼等は日常、どのようなヤカラを相手にしなければならなかったのか。

スミスと話している最中に、やたら忙しそうなラジオのインタビュアーが、クルーと一緒に飛び込んで来た。ロング・ヘアーをカッコよくキメているけれど、着ているのはツイードの背広だ。マイクのスイッチを入れるまでは普通にしゃべっていたのに、オンになったとたん --- 「ハ〜イ!みなさんごきげんいかがですかあ?!」スマイルと DJ のパーソナリティーが毛穴という毛穴から吹き出した。

「こんにちは、ダグ・クロフォードです!きょうはツアーでイギリスを訪れているデトロイトのバンド、エムシーファイブ、モーター・シティー・ファイブのところにやって来ました!フレッド・スミス、だよね?キミたち、革命的バンドなんだって?」(と、デビッド・フロストばりの明瞭な発音で訊ねる。)

スミス: はあ??

クロフォード:「『かくめいてきばんど』!つまり聞くところによるとキミたちって、人をほんとに殴っちゃうんだって?人にショックを与えるバンドだそうだね?」

「ええと、う〜ん、そういうこともあるかもしれない. . . 」

「キミたち何をねらってるの?」

「オレたち何をねらってるかって??」

「つまりさ、どういうテクニックを使うの?つまり、曲を演奏しててさ、なんで人を殴ろうと思うわけ?どうして人にショックを与えて. . .」(そして例の快活な口調で)「怒らせてしまうのかな!?」

「う〜〜ん. . . オレたち、人を怒らせたいのかなあ. . .??」ここでスミスは真剣に考え込んでしまい答えが見つからない。

クロフォードはこの時点でテープのスイッチをガチャンと切る。ここからはラジオでは放送されなかった部分である。クロフォードが説明する。「あのねキミ、例えば僕がだね、もし音楽をやってるとして. . . キミたちがどういうポリシーでやってるんだか知らないけど、とにかく僕がマイクの前に歩み出てだね、眼の前の聴衆に向かって(相変わらず例のデビッド・フロストの発音で)『マザー・ファッカー!』って叫ぶとするでしょ、キミたちそれをやったって聞いてるよ、それって人を怒らせるだろ?どう考えたって年輩の人たちを怒らせるよね?」

スミス:「僕らの客に、年輩の人ってあんまりいないと思うんだけど. . . 」

後で彼は、マザー・ファッカーと言う言葉は「僕らの音楽を支持してくれる人たちに向けられた呼びかけで、彼らを怒らせるために言ってるんじゃない」と説明した。革命については、「イギリスじゃどうか知らないけど、少なくともアメリカでは、バンドでも、ある程度の政治意識を持たなければならない。アメリカの社会では今、ものすごくいろんなことが起きてるから。体制側でも、若者の間でも、政治意識において多くの変化が起きている。そういう新しい意識を表明するためには、放送禁止用語も敢えて使っていかなくちゃならないんだ。」

社会の大変動と革命について、彼等は僕らと変わらず「意識して」いるのだ。とはいえ、コンサートのオープニングでは「演説や革命のために来てるんじゃないぜ!ロックンロールをやりに来たんだ!」と叫ぶのである。. . . .

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