最新版クレイマー・レポート#6 の対訳を掲載する。内容からして彼のツアーが始まる前にアップすべきだったのだが、前後してしまって申し訳ない。なお文中「服飾メーカーのエックス・ラージ社」とあるのは、ビースティー・ボーイズのマイク・D が出資して創立されたヒップ・ポップ系のアパレル・メーカーである。また、MC5のドキュメンタリー・フィルムだが、数日前にフューチャー/ナウから連絡があり、シカゴで行われる「シカゴ・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティバル」において、2002年8月22日、全編が上映されることになったという。そちらも別途追って詳細をアップする。今回のウェインのレポートを読んで、MC5ファンなら死ぬ程この映画を見たいと思うことだろう。ピストルズの No Future が日本で上映されたのが2000年10月。そして今日本では「頭脳警察」が再びクローズアップされている。ロックが政治と真剣に結びついていた時代に対するノスタルジックな興味が若いロック・ファンの間に生まれつつあるのかもしれない。当サイトを読んでくれている方で映画配給関係の方がいらしたら、是非買付けの検討をお願いしたいと思う。

クレイマー・レポート No. 6 (2002年6月)

にわかに忙しくなってきた。新譜「アダルト・ワールド」がリリースされたのに伴い、周辺がさまざまに活気づいてきたんだ。新しい知識をいろいろ吸収しているところだ。俺はかれこれ30年以上もレコード・ビジネスに身を置いてきたが、それはアーティストとしての関わりだった。だが今の俺はレーベルとして関わり合っている。全然違うんだ、これが。生産、パッケージング、配給といった分野に従事する人たちと初めて知り合い、彼等と共同作業をする連帯感を感じている。地味で面白みには欠ける仕事だが、音楽ビジネスを支える重要な屋台骨ってわけだ。

マーケティング・プランや販売網について徹底的に勉強したり、いろいろな支払いをするためのカネをどう工面するか常に頭を悩ましたり、とにかくチャレンジの連続だ。

メジャーのレコード会社と違って、新譜1枚リリースするために何百万ドルものカネをかけられる身分じゃない。で、俺たちは考えた。君たちに、一般の人たちに、俺の音楽を届けるための方法を。そのひとつが「タイアップ」ってやつだ。

フェンダーにいる俺の知り合いが協力を申し出てくれて、アダルト・ワールド・ツアーと新譜のプロモーションの協賛に向けて作業をしている。フェンダーのストラトキャスターを賞品にして、アメリカ全国でいくつかのコンテストを開催するんだ。アップル・コンピューターにも「マックで制作」っていうキャンペーンがらみで後援してもらう。実際、俺は「アダルト・ワールド」をマックを使って録音した。それで、今回ツアーのルート上にあるマック・ショップでデモをすることになっているんだ。時間や場所が決まったらこのサイトでも知らせるつもりだ。

それから、服飾メーカーのエックス・ラージ社が、俺達がステージで着る服を提供してくれた。バンドがある程度統一のとれたスタイルを持てるようにってわけだ。俺たちロッカーがよく言う「ギグ・カブレ」ってやつ、要するにケツにアセモができることなんだが、そういうハメに陥らないような清潔な服装をして毎晩クールにステージに立つってのは、結構大変なことなんだぜ。そう、公正さと実利に関する俺の基本的信条に反しない限り、俺は誰のどんな製品に関してでも、俺が目指すゴールについて話し合う用意がある。「違う角度でものを見る」って陳腐な表現があるが、自分のアルバムをみんなに聴いてもらう新しい方法を見つけるために俺がしなければないのは、まさしくそれなんだ。こんな話は退屈だと思うけど、こういうことは俺の日常の一部でもあるし、これは俺のレポートだからここに書き記しておきたいと思う。

再びツアーに出るってことも現実味を帯びてきた。そのことで自分が興奮しているのを感じる。バンドのメンバーも決まり、ベースにはダグ・ラーンを確保することができた。俺のソロ作品を聴いている人はダグの名前をよく知っていると思う。彼はロサンジェルスで最も引く手あまたのスタジオ・ベーシストで、同時にヴィダ・ヴェラ・バンドをヴィダと共に率いているリーダーでもあるんだ。ヴィダ・ヴェラ・バンドっていうのはロサンジェルスで最高にハードで楽しいダンス・バンドだ。実際には単なるバンドじゃなくて、ダンサー、シンガー、パーカッショニストから成る「スウィング・ダンス・カンパニー」って一座を含むグループだ。最近サンタ・モニカのテンパーってバーに彼等のパフォーマンスを聴きに行ったが、サンバとラテン・ダンスで壮絶に盛り上がっていた。クラブであんなに熱狂して踊ってる客を見たのは本当に久しぶりだった。

そしてドラマーはエリック・ガードナーだ。彼はレコード会社が抱えている「次なる大物」のお子様バンドに本物のドラマーが必要な時に呼ばれてプレイしているわけだが、その合間に俺のバンドで叩くっていう兼業をかれこれ1年間続けている。東部出身で、ハードなグルーブを持つ、それでいて繊細なドラミングができるプレイヤーで、およそありとあらゆる音楽ジャンルのグループとアメリカ各地で仕事をしてきている。マイアミでラテン・ジャズ、次はボストンのブルース・バンドって具合だ。今回はアダルト・ワールドの録音にも参加してもらった。とにかく若手の中では最高にホットなドラマーの一人だ。この先も俺の仕事を続けてくれることを願っている。

そしてこのツアー・バンドのラインアップを完璧なものにしてくれたのが、キーボード、ギター、ボーカルを担当してくれるジム・ウィルソンだ。ジムはマザー・スペリアーのメンバーで、彼等は今回のツアーでは俺の特別ゲストということになる。ツアーを通じて俺のバンドをサポートするというアイデアにジムが同意してくれたので、最終ラインアップが完成したというわけだ。

俺にとってこのバンドは全くのドリーム・チームだ。っていうのも、4人編成のバンドを持つということは俺の長年の夢だったんだ。だが1人分のツアーの経費ってのはものすごく高いから、4人目のメンバーを雇う予算がなかった。それが今回は、もしかするとジムが、彼のバンドと俺のバンドの両方でプレイすることを考えてくれるかもしれないってアイデアが頭に浮かび、そしてその念願がかなったんだ。リハーサルはすばらしい仕上がりで進んでいる。30〜40分ウォーミング・アップのジャムをやるんだが、それがまるで4、5分に感じられる。全員が一つの音楽の流れに乗ってグルーヴをつかみ、一つのチームとなってプレイする。彼等はすばらしい本能を駆使して、サン・ラ、ジェームス・ブラウン、チャック・ベリーからチャールズ・ブコウスキーに至るまで、幅広いジャンルの音楽を理解している。

これまでに行なったどのツアーにも増して、俺は今回のツアーを楽しみにしている。このメンバーとプレイできるということは本当にすばらしいことなんだ。すごいギグをやってやる。バンに押し込まれてアメリカ中1000マイルもドライブするのが楽しみって言ったら嘘になるけれど、生活費を稼ぐ手段が音楽で、それをこういうすばらしいメンバーで行なえるって事に俺は深い感謝の念を感じている。それによって俺が得られる真の報酬は、常に、仲間との連帯感、そして共に汗を流す人間に対して抱き合う尊敬の気持ちなんだ。労働者の中で自分も労働者であること、仲間と共に自分も仲間になること、これ以上すばらしいことがあるだろうか。

今回のツアーではちょっと実験をしてみたいと思っている。セット・リストのリクエストを送って欲しいんだ。このツアーでは新しいアルバム「アダルト・ワールド」を中心に演奏するから、少なくともツアーが始まってしばらくの間は俺たちがプレイする曲を知ってる人間は誰もいないってことになるが、7月16日にリリースされた後は、チケットを買った人みんながその内容を理解して来てくれればいいなと思う。

とにかく、俺が君の町にやって来た時、どんな曲を演奏して欲しい?俺のソロ作品、それにMC5の曲だっていい。君たちの希望がすごく知りたいんだ。

先月、MC5のドキュメンタリー・フィルム「トゥルゥー・テスティモニアル」試写のためにシカゴに行ってきた。この映画製作と俺の関わりを単に「強烈な体験だった」と評してしまったら全然言い足りない。古い仲間のマイケル・デイヴィスやデニス・トンプソンと再会することができたし、ロブ・タイナーの家族と知己を得られたのはこの映画がもたらしてくれた最大の恵みだった。ロブの娘、エリザベスは俺の姪みたいな存在になったんだ。この映画を見て俺がどういう感情を抱いたか、それを十分説明するのは難しい。自分の人生の初期の部分が形成されていく有様が大スクリーンに映し出されるのを、座席に座って眺めるわけだ。映し出されるのは俺、俺、そしてまた俺 . . . 俺みたいに自己中心的な人間には目の毒だった。

製作スタッフはMC5のストーリーを見事に再現した。もちろんフレッド・スミスとロブ・タイナー不在で作られたから彼等の視点が欠けているわけで、ある意味では偏った見方のドキュメンタリーと言えなくはない。本当に残念なことだと思う。なにしろロブとフレッドはバンド・メンバーの中でも、話をさせたら一番面白い2人だったんだから。生と死ってヤツはまったく不公平だ。しかし残された我々は、メッセージを最大限に伝えるためにベストを尽くしたのさ。

映画はMC5の全てをカバーしている。リンカーン・パークでバンドが結成された初期の頃の映像から、デトロイトとアン・アーバーでの壮絶な政治闘争の日々、FBI との戦い、そして音楽ビジネスのことなんかも入っている。未公開の映像と共に多くの関係者のインタビューを挿入しながら、MC5のストーリーが細部にわたって展開される。時として俺たちのブザマな様子も描かれ、これは絶対的に、大金持ちの大物ロック・スターを実際以上にビッグに描いてへつらうあのテのテレビ用バイオグラフィーじゃない。これは本物のドキュメンタリーであり、MC5の物語がついに語られようとしている、しかも正しく描写されていることに俺は感謝の念を覚える。コンサートの映像は唖然とするほどすごい。俺たちが特にすばらしい演奏をした後、会場のオーディエンス全体がものすごく感動して総立ちで拍手喝采している場面があったが、俺も初めて見る映像だった。すばらしかった。

見ているのが辛くなる場面もあった。特に終盤近く、バンドの結束が崩れていくあたりだ。ドラッグとアルコールのせいで俺の記憶ってのは相当あいまいなはずなんだが、撮られたギグのうち、一つを除いて起こったことほとんど全てを憶えていた。その一つってのは、1971年フィンランドのヘルシンキでの映像で、俺はギグが始まる直前までウイスキーをあおっていて、その後ステージに出て行くんだが、その時の記憶はまるでない。恐ろしいよな。この映画がいつ一般公開されるのか、ここで知らせることができればいいんだが、その点について俺は全く関与していないんだ。これは俺と俺のバンドを描いた映画であり俺はその製作に協力したが、だからといってこれは俺の映画じゃない。このドキュメンタリーはフューチャー/ナウの作品であり、全面的に彼等が管理すべきものなんだ。新しい情報が入れば、またここで発表する。

いっしょに仕事をした他のバンドから教わったことを俺たちも試してみることにした。「ストリート・チーム」ってやつだ。国中の友人やファンと連帯して俺たちのプロジェクトの一端として活動に参加してもらうんだ。ニュースを広めたり、ポスターを貼ったり、ラジオにリクエストを送ったり、CDショップに足を運んだりしてもらう。クールなアイデアだと俺は思うが、ストリート・チームに応募した人間のほとんどは義務を果たさないって忠告も受けた。多分、無料チケットやグッズやバックステージ・パスにつられて家のパソコンから登録のEメイルを送ることと、椅子から腰を上げて、町に出て体を動かすってことは別のことなんだろう。だが実験的にやってみるのは面白いと思うんだ。だから応募してみたらどうかな。アメリカ全国、いろいろな町を訪れて君たちに出会えることを楽しみにしている。俺たちがツアーに出ている間もこのサイトをのぞいてみて欲しい。メッセージ・ボードに書き込んで、何が起こっているのか教えてくれ。

それじゃあ、アメリカのどこかで会おうぜ!

ウェイン・クレイマー
2002年7月

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