2003年最後を締めくくるレポートで、ウェインは「普通の生活」への憧憬を記した。淡々とした質素な日常の中で、新しいオーディエンスに向けた、一層創造的な音楽の新境地を追求し進化し続けるロッカー、ウェイン・クレイマーである。

同じアメリカ人でもショックを受ける程アメリカ南部が保守的だとはちょっと驚き。

クレイマー・レポート No. 20(2003年12月1日)

少なくとも、つましい生活を送るロッカーであるこの俺に関して言えば、ロック・スター神話は完全に崩壊している。つまり、今回のツアー最後のレポートが執筆されているこの場所は、シャンペンやコカインが飛び交い、スーパー・モデルや娼婦を侍らせた高級ホテルのスイート・ルームではなく、どこにでもある買い物客で混雑したネバダ州の町、プリムだってことだ。世界的に有名なプリム・ファッション・アウトレットのショッピング・モールでこれを書いている。

そう、俺は今、数百万人の平均的アメリカ人男性と同じ事をしているんだ。つまり、カミさんが買い物をする間、フード・コートで時間をつぶしているのさ。文句を言ってるわけじゃない。ここは衣料品がすごく安いんだ。俺が好きなケネス・コールだって6割引きだ。クリスマス・ショッピングのシーズンだし、俺も例外じゃない。楽しいね。友人や家族と共に穏やかな良き生活が送れる事に感謝の念を覚える。かつてのワイルドな暮らしを思えば、飛躍的な生活向上だ。

普通の人間が行う普通の事をするのが近頃楽しくてしょうがない。この間はアリゾナ州フラッグスタッフの東にあるメテオ・クレーター(アリゾナ大隕石孔)を訪れ、その後グランド・キャニオンとフーバー・ダムにも行ってきた。すごく面白かったね。俺は生まれつきヒネクレ者で根っからのアマノジャクだったし、ハイスクールでもカッコつけて人と同じ事なんかおかしくてできるかってイキがった態度だったから、観光とかそういう事を全然したことがなかったんだ。で、今やっとそれを体験し始めて、大いに楽しんでいるというわけさ。

ツアー自体は、中南部とテキサスで13回の公演を行った後、先週ケンタッキー州オーウェンズボロウで幕を閉じた。全く壮大なプロジェクトだった。繰り返して言うが、俺を前座に選びツアーに同行させるなんて、チープ・トリックってのは、大した勇敢なバンドだぜ。彼らは間違いなくバンドとして一歩前進し、それは自分たちにとってもプラスになったと言ってくれた。彼らのファンも、それまで一度も耳にしたことのない、全く新しい音楽を聴く機会を得られたんだ。しかも毎夜商品販売のテーブルで俺が聞いた感想からすると、ものすごく楽しんでもらえたらしい。

一番ありがたかったのは、俺の音楽をそれまで全く聞いた事のない人たちに向かってプレイできたことだ。アメリカ中央部に住む平均的な音楽ファン。彼らがこう言うのを何度も何度も聞いた:「悪いね、アンタのこと全然知らないんだ。でも音楽は最高に楽しめたよ!」事実、ツアー終了までにアルバム「アダルト・ワールド」は完売した。俺は長年「完売」ってヤツを夢見てたんだ。それがついに実現したのさ。

ギグが終わった後話をした、数多くの人たちからもらった嬉しい言葉。ありがたく、ためになる感想。ただ時々耳にするこう言うコメントには少々面食らった。「あんた勇敢だね、ステージの上であんな事歌うなんて」とか、「ああいう風にものを言う人間がこの土地には必要なんだ」なんて感想だ。

俺は別世界に住んでるわけじゃないし、他人と比べて特に勇敢だとか外交的ってこともない。俺がショックだったのは、自分の態度や見解がアメリカ中部ではそんなにも過激だと受け取られるのかって点だ。俺が世間知らずなだけか?それともこの国には人を恐怖に陥れるものが、俺が考えている以上に多く存在するのか?自分の意見に反対されてもいっこうに構わない。実際、活発な議論こそが健全な民主主義に必要なものだし、奨励されるべきだ。俺が驚いたのは、議論を恐れる風潮が存在するってことだ。司法長官のアッシュクロフトたちが、想像以上に言論の自由を弾圧しているのか、さもなければ未来に対して俺が考えている以上に大きな不安が存在しているんだろう。これは明らかにもっと調査して然るべき問題だと思う。

今回俺達を雇ってくれたチープ・トリックについて、もう少し付け加えておきたい。MTVやラジオに全く取り上げられなくても(音楽活動を志す者なら誰しもまずこの2つを目指すべきだってわけじゃないが)、この業界でいかにバンドの存続が可能で、しかもツアーで大成功を収められるか、彼らはそれを示してくれた。そして彼らはツアー興行を正しく行うやり方を知っている。正真正銘のプロだ。ありがとう、ブラザーズ。

いつものように、ダグ・ラーンとエリック・E-ロック・ガードナーは毎晩すばらしい演奏をしてくれた。卓越したリズム・セクションであり、ロサンジェルスでも最も依頼の多いミュージシャンになりつつある。俺との仕事が終わればジャズ・クラブをこなし、他にもポップ、ロック、ペルシャやブラジルの音楽までやっちまう!あの2人と知り合い、いっしょに仕事ができることに感謝している。

今回のツアーには、優れたキーボード・プレイヤー、ゲリー・松本が新たに加わった。俺のバンドでプレイすることが大変なのはわかっている。音楽的に型破りなことをたくさんやらされるし、プレイヤーに対する俺の要求は高い。が、だからこそ楽しいんだ。オーソドックスな音楽を型通りにやるバンドはゴマンとあるし、彼らに異論を唱えるつもりは毛頭ないが、ただ俺は他のことをやりたいんだ。音楽的に、それから他の全ての点でも、今回の「『反物質』への秘密の道」ツアーは大成功だったと思う。それを実現してくれた関係者全員のハード・ワークに心から礼を言う。

さあ、来年実行したい1万件ものプロジェクト実現に向けて仕事開始だ。

みんな、年末年始楽しい休暇を過ごしてくれ。今年1年俺達をサポートしてくれてありがとう。来年また会おうぜ!

ウェイン

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