先月ウェイン・クレイマーとそのバンドは、アメリカ中南部とテキサスを巡るチープ・トリックのツアーで前座を務めた。チープ・トリックはMC5をリスペクトするバンドの一つであり、MC5ドキュメンタリー映画のインタビューにも顔を出している。今回はそのツアー・レポートである。「新しいオーディエンス」を得て幸福を感じるウェイン。MC5からのファンとしてはちょっと寂しい気もする。なお文中の「アラモ砦」に関してはこちらの解説を。


クレイマー・レポート No. 19(2003年11月14日)

テロリストへ: テキサスをナメるなよ!アラモ砦を忘れるな!

多少時間は要したが、このツアーにも面白いことがいろいろと起こり始めている。テキサス州ボーモンでギグを行ったんだが、キック・アウト・ ザ・ジャムズに リック・ニールセンが飛び入りしたんだ。めったにやらない曲だが、その夜は特別リクエストに応じた。で、リックがステージ袖に立っているのに 気が付いたから、引 っ張り出したというわけさ。最高に楽しかった。

今回のツアーで集まってくる客層は、いつものMC5フリークのパンク・ロック・ファンとはちょっと違っている。俺が昔MC5のメンバーだったことを知っている人間も多少いるようだが、大半の客はウェイン・クレイマーの名前など聞いたこともない。で、そのことがものすごくありがたいんだ。つまり、今の俺の音楽を、今のオーディエンスに聴いてもらい、彼らがそこで初めてそれを評価して、俺の音楽を好きか嫌いか判断するって点が嬉しいんだ。これまでのところ評判は上々さ。

前座を終えてチープ・トリックが出て来るまでの間、物販のテーブルまで出て行きファンと話をするんだが、たくさんの人からどういうことを言われるかというと、「アンタだれ?どこから来たの?こんな音楽聴いたの生まれて初めてだ」こういう素直な反応を示してもらえるのは心底嬉しいし、ありがたいと思う。質問も飛んでくる。「どのCDを買えばいい?さっき歌ってた曲が入ってるのはどれ?」俺は今、全く新しいオーディエンスに向かってプレイしている。すばらしい事だと思う。このところチープ・トリックとマッスル・ミュージックのメッセージ・ボードはいずれも賑やかだ。

昨晩、ニューオリンズのハウス・オブ・ブルースで、チープ・トリックは突如「ランブリング・ローズ」を即興でやり始めた。リックは例のウラ声で歌い、俺やツアーの他のメンバーにも大ウケだった。

ツアーを行うロック・バンドは多いが、チープ・トリックはその中でも最高にすばらしいバンドのひとつだ。彼らがMTVやKROQといったラジオ局とは全く無縁な世界で大成功を納めているという事実を俺は嬉しく思う。毎晩100%で全力投球し、多くのファンを獲得している実に偉大なバンドだと思う。チープ・トリックには全てがある:ソリッドでセクシーなベース、鮮烈なギター、すばらしくハンサムで最高の声の持ち主であるリード・ボーカル、そして秘密兵器のドラマー、バニー E. カルロスだ。バンドの実力はドラマーで決まる。チープ・トリックのドラマーはロック界で最も優れたプレイヤーの1人だ。卓越したソング・ライティング、数曲のメガ・ヒットを飛ばし、バンドが存続する限り輝き続ける、ファンにとって大切なブランドを築き上げたんだ。新作は素晴らしい仕上がりだ。中でも俺は "Scentof a Woman" (「女の香り」)が好きだ。このツアーでは彼等もファンも楽しくやっている。

それから是非とも付け加えておくべきは、俺たちのようなバンドをこのツアーの前座に選んだ、チープ・トリックの勇気だ。俺の音楽は「ポップ・ミュージック」の範疇をしばしば逸脱する。言い換えれば、俺を前座に持って来ることで、彼等は危険な賭けをしてるということさ。自分達のファンは自分でものを考えられる、俺の音楽を楽しむ度量があると信頼しているからこそできることだ。俺を知る奴ならこういう言い方がわかると思うが、俺って人間は、苦しむ者を安楽にし、安楽な者を苦しませるタチだから。

チープ・トリックはツアー・スタッフも一流だ。毎晩仕事に出かけるのが楽しくてしょうがない。見事なサウンドを造り出し、全てがスムーズに進行する。正真正銘のプロだ。

高速を走っているとワニが道路を横切るのを見た。普段の俺の生活ではめったにお目にかかれない光景だ。俺は根っからの都会育ちだし、鮫とかイタチとかオオカミなら少しは見た事があるが、ワニってのは珍しかった。

さっき運転をエリック・E-ロック・ガ−ドナ−に代わってもらったところだ。エリックは俺たちの中でもチャンピオン・ドライバーさ。そのドラミングにも似て、ハイウェイでは岩みたいに安定した運転を披露する。俺も運転は好きだ、なにしろデトロイトの出なんだから。今日はいささかそれを楽しみ過ぎて、ルイジアナを過ぎて国道10号線を西に走らせていた時、制限時速75キロのところを130出しちまってた。州警察の警官は礼儀正しく事務的で、特にウルサイ事も言わずに違反切符を切ってすんなり解放してくれた。罰金がいくらか知りたかったので裏面に記載された番号に電話した。189ドル!おお!!

チャールズ・ブコウスキーのCDを聴きながら車を走らせていて、ついスピード感覚を失ってしまったんだ。ツアーに出発する時、チープ・トリックのツアー・バスのドライバーから、気をつけろよとクギを刺されてはいたんだが。だが、いいじゃないか、飲み過ぎて吐いたり、スピード違反をしたり、大人が少しばかりハメをはずして陽気に騒いでるだけだぜ。それこそツアーの醍醐味ってものだ。

先週ニューヨーク・タイムズですっぱ抜かれたこと -- イラク戦争開始前の数日間の出来事、米軍の侵略を避けようとイラクが示した努力、説得と外交努力による解決を試みず、アメリカ政府がいかに暴虐と破壊の道を進むことを好んだか -- ゾッとする内容の記事だった。兵士に尋ねてみるといい、戦争なんか最後の最後までして欲しくないと誰もが答えるだろう。戦争というのは、他の手段がどれも完全に失敗に終わったということを意味する。で、どうだ、今俺たちは、ホワイト・ハウスには他に取れる方法があった、なのに政府はそれをにべもなく却下した、という事実を知ったんだ。少なくとも奴らの態度は一貫しているがね。つまりいつだって最良の方法を無視し、考えられる限り最悪の針路を取るってことさ。

が、こういうことも今となっては大した意味を持たない。今重要な問題は、ブッシュを次期大統領選で敗北に追い込めるかってことだ。体制はいつかきっと変わるものだ。

道路沿いに標識を見た。「テロリストへ:テキサスをナメるなよ。アラモ砦を忘れるな。」少し安心した。

続きはまた。

ウェイン

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