クレイマー・レポート、ロンドン/フランス編。「近頃稀」と書いてあるフランスの女性客の行動。確かに昔は日本のロック・シーンでもこういう反応があったと思うが、今のロック・ファンの女の子たちはざっと見たところ不思議にユニ・セックス。男子と一緒にモミクチャになってモッシュという参加形態が多いからか。今、日本で最前列でこれをやったら. . . 同性には嫌われ男の子も引くだろうなあ。

クレイマー・レポート No. 14 (2003年6月13日)

イギリスに別れを告げ再びフランスへ

スコットランドを終え、ウェールズ南西部まで南下してニューポートという町のティー・ジェイズでギグを行った。満足のいく内容だったし、友人やファンと楽しい夜を過ごした。そしてイギリスを横断してロンドンへ向かった。

ロンドンは俺が完璧にリラックスできる都市のひとつだ。最初に訪れたのはMC5時代の1970年だったが、それ以来ずっとこの町に親近感を抱いている。イギリス人の友人や仕事上のパートナーがあまりに多いので、時々自分までイギリス人みたいな気がすることさえある。今回の訪問はもの凄い強行軍で、ギグ当日と翌日に多くのインタビューをこなした。

同じ質問に何度も答えるのはウンザリするでしょうねと訊かれる。確かにそういう時もあるが仕事の一部だと割り切っている。率直な気持ちとして、ジャーナリストが俺のやっていることに興味を抱いて話を聞きに来てくれることに感謝してるんだ。インタビュアーが物事に対してある見解を持っていると、それに関して真剣な意見交換が行われることもある。それに結局、全く同一の質問と言うのはあり得ない。物事は変化するものだし、新たに語ることは常に存在する。他人のアイデアを知り、吟味するいい機会だ。常にオープンな態度で調査と再調査に応じるという経験なんだ。

旧友や新しい友達が大勢姿を見せ、ロンドンでのギグはもの凄く楽しかった。中でも嬉しかったのがケイト・オブライエンが来てくれたことだ。数ヶ月前にロンドンでMC5/ソニック・レボルーション・ショウが開催された時、マイケル・デイビスやデニス・トンプソンや俺達みんなと共演してくれた、ソウル・ボーカリストがケイトだ。あの時彼女はロブ・タイナー作のすばらしいバラード、「レット・ミー・トライ」を歌ってくれた。パワフルで魅力的な女性だ。今回もステージに上ってもらい、「バック・ホェン・ドッグス・クッド・トーク」のコーラスに参加してもらった。ケイトのような無名アーティストとMC5は、どこかでつながっているのを感じる。だから、そういうアーティストたちを世に出す火付け役になれるなら、喜んでその任を負うつもりだ。

ギグ終了後、アラン・マクギーが経営するクラブ、ノッティング・ヒル・アーツに繰り出し、ダンスと歓談で過ごす深夜の社交会となった。エリック・ガードナーとフレディー・クロンの2人はダンス・フロアで大暴れ、多くの若いミュージシャンに出会えたし、陽気で楽しい夜を過ごした。俺が過去に創作した音楽に大きな影響を受けたと言ってくれる若いアーティスト達に会うと、いつも感謝の念を覚える。彼らが真摯な情熱を示してくれるのは名誉なことだし、その名誉は、故フレッド・スミスとロブ・タイナーを含めMC5の仲間全員で分かち合うものだ。フレッドとロブも天国で若者達の賛辞を誇り高く受け取っていることと思う。

ロンドンを離れ、ドーバー海峡をフェリーで渡ってフランスに上陸、カレー経由で翌日レンヌに到着した。イギリス人やイギリス文化を侮辱するつもりは毛頭ないが、あの国の食べ物(特にコーヒー)はあまりイタダケない。その点、フランスに戻って嬉しかった。

午後ギグを行う場所に到着。昼夜の区別がはっきりしなくてヘンな感じだ。夜9時半でもまだ明るい。この後さらに北に向かってスカンジナビアに入ったらこの感覚はもっと強まるだろう。

モンド・ビザーロというクラブだったが、ここはヨーロッパをツアーするバンドなら必ず一度はプレイする場所だ。小さいクラブだったが、それまでのツアーで最も満足のいく結果に終わった。ステージと楽屋はいたって素っ気ない造りで、俺達がロサンジェルスでよくプレイするベイクド・ポテトを思い起こさせ、家に帰ったようなリラックスした気分でいられた。

70人そこそこしか入らないクラブに200人以上のファンが詰めかけ、俺達がステージに登場すると凄い騒ぎになった。おりしも満月の夜で、ああいう夜には不思議で魅惑的な出来事が起こるものだ。再びたくさんの人が足を運んでくれて、オープンな姿勢で俺達が奏でる音楽に耳を傾け、それをよく理解してくれた。インプロビゼーションでも非常にクリエイティブになれて、それまで全くプレイしたことのないようなアウトプットになった。

オーディエンスは次第に激しく興奮し、しまいにはステージの俺めがけてブラを投げる女性まで現れた。さらには若くて綺麗な女の子が興奮してシャツを脱ぎ始め、とうとう上半身裸になってしまった。こういうレスポンスを受けるのは近頃稀で、そもそも俺がバンドを始めた動機であるところの、ロックンロールのこういうセクシーな興奮を再び味わえたのはすばらしかった。この後起こったことを書くとワイセツになるからやめておこうか。とにかく楽しかったし、最前列にセミ・ヌードの女の子を置いておくってのは確かに悪いもんじゃない。ファンは俺達の音楽に熱狂し、ギグが終わった後みんなと話をしたりして過ごした。

ダグ・ラーンはある男と面白い会話を交わした。そいつはかなり酔っていたそうだが、ダグにこうこぼしたんだ。「お前らミュージシャンは、この町にやって来ちゃあ、ここの女の子をタブらかし、ホテルに連れ込んで一晩中コカインをやらせるんだろう。」こいつは多分VH1チャンネルで放映してる「音楽の舞台裏」の見過ぎなんだな。確かにロックの世界じゃそんなこともまだ行われているのは知ってるが、俺や俺の仲間はそういう行為とはとうの昔にオサラバしたのさ。悪いな、アニキ、がっかりさせて。というわけで、やっぱり満月の夜には妙なことが起こるのさ。

このツアーにはモバイルのデジタル録音機材を持って来ている。将来リリースできるよう、フレディーと俺は今回のギグのいくつかを録音しようと試みている。これがかなり難しい作業であることがわかった。というのもギグを行う場所はそれぞれ異なるサウンド・システムを持ってるわけで、ミキシング・コンソールも常に違うつくりだ。ギグに間に合うようにシステムをセットアップする時間がない時もあるし、つぎはぎするに十分なサウンド・マテリアルが得られない場合もある。だがとにかく試み続けるつもりだし、ツアーが終了する頃には、ウェイン・クレイマーの仕事人生におけるすばらしく驚異的一コマを記録した1枚のアルバムが完成していることを期待したい。

これを書いている今、俺達はさまざまなジャンルの音楽を聴きながらフランスを横断しているところだ。「レンヌ・ミュージック」という、フランス屈指の品揃えを誇るレコード店に立ち寄った。俺が買ったのはギル・エバンスの「アウト・オブ・ザ・クール」、エミネムの「エイト・マイル」、そしてレッド・ロドニーのレア盤を1枚。車中かけているのはジョン・コルトレーン、アーチー・シェップ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ。今ちょうどサン・ラの「スペース・イズ・ザ・プレース」が始まったところだ。昨日は「スピードボール・ベイビー」というニューヨークのバンドのクールなアルバムを聴いた。グルーブしながら俺達の旅は続く。

神の祝福を。
ウェイン