長い沈黙を破って更新に手をつけたのは、あるCDを紹介したかったからである。

2008年3月、鳥井賀句氏から1枚のCD-Rが届いた。このMC5 Japanのインタビュー集、"Bro Speaks" でも取り上げたデトロイト・ロックの生き字引、ロン・クックがプロデュースした編集盤、"Motor City Rockin' "だった。インタビューの中で彼が再三語っていた未公開音源の数々が、クック自身の手によって2005年にCD化されていたのである。

プレイヤーに掛けてみて、私は本当に長い間味わったことのない感動を覚えた。クックがフレッド・スミスやジョニー・サンダース、ウェイン・クレイマーらと残した音源やライブ録音を含む珠玉の16トラックの完成度は驚くほど高く、その幅広い音楽性と斬新なサウンドは、2008年の今聴いても全く色褪せていない。ほとんど名を知られることなく終わったこれらミュージシャンたちの卓越したパフォーマンスが、デトロイト・ロックの実力とその偉大な底力を証明した。

さらに驚いたのはロン・クックの優れたソングライティングで、収録されているトラックの多くが彼の手によるものである。私はこの時までクックのことを「暴走族系のデトロイト・ベーシスト」くらいにしか考えていなかったのだが、ロックのみならずブルースからR&B、カントリーに至る幅広いジャンルの曲はどれも小品ながらすばらしい。

ちょうどこのディスクを手にしたのと前後して、日本レコード協会が発表した2007年度CD売上高に関するニュースが小さく報道された。CDの売上 が減少の一途をたどる一方で、インターネットによる音楽配信が急増し、ネット音楽配信はついにCDアルバムに次ぐ2位に浮上したという。

Motor City Rockin'のような音源がネットで配信されることはまずあるまい。CD売上低迷の陰でこういう音楽がひっそりとリリースされるなら、自分はこれからもずっとCDを買い続けるだろうし、私たちはこういうものを探し当て、光を当てる努力を続けなければいけないと思う。

当然コピーではなくオリジナルが欲しくなり必死でネット上を捜したがついに見つからなかった。賀句氏はさすがにプロだ。これを読んでいる人がいつかどこかで発見したら、直ちに買うべき。クック自身が寄せている短いライナーがしみじみとよい。対訳を掲載する。

CD解説はこちら

ここに収めた曲も今では思い出のひとつになってしまった。だがこの16トラックは、デトロイトという街で生まれたロックンロールが、それを奏でたアーティストたちと同じように、短く熾烈な運命を辿ったという事実を証明している。ずっと言われてきたことだが、ニューヨークやロサンジェルスの大手レコード会社は俺たちの魂を買うことはできなかった。だからここに記録された音楽は決して陽の目をみることはなかった。俺たちはアメリカのメイン・ストリームやその政治システムに迎合しなかったからだ。そして音楽だけでなく、これらのアーティストたちをコントロールすることも不可能だったからだ。この16トラックには、希望と夢と、奴ら全員の魂が息づいている。だからこの音楽を聴く時は、評価しようとしたり、悔い改めを求めたりせず、とにかく大音量で聴いてくれ。そうしたら、ロックンロールってのは結局、出口を求めて高速でブッ飛ばすブルースなんだってことがわかるだろう。

ロックンロールよ、永遠なれ。

W. R. クック
プロデューサー