若い方はご存知ないかもしれないが、1960年代、「コンバット」というアメリカのテレビ番組を日本で放送していた。戦争モノで、第2次世界大戦の確かヨーロッパ戦線が舞台だったと思う。主人公は「サンダース軍曹」。ヴィック・モローが演じていた。渋い、いい役者で、映画にも数多く出演していたが、1982年、不幸にも「トワイライト・ゾ−ン」撮影中に事故で亡くなっている。

サンダース軍曹は、ブラウン管の中で常に戦っていた。相手はドイツ軍だけではない。敵は味方の中にもいた。無気力、卑怯者、非人間性、正義を欠く魂。戦争だから軍曹の顔はいつも汗と埃で汚れていて、その中から意志の動きのはっきりした、大きな2つの目玉が光っていた。

いつの頃からか、サンダース軍曹とウェイン・クレイマーのイメージが重なるようになった。風貌も何となく似ているのだ。自分にとってクレイマーは、一貫して「闘う兵士」なのである。官憲や圧政者と闘争し、バンドを維持しようと奮闘し、ドラッグと闘い、アルコールと格闘し、現在は薬物摂取やアルコールの問題を抱えるミュージシャンに救いの手を差し伸べる活動と共に、ビリー・ブラッグと設立した基金、Jail Guitar Doorsを通じて刑務所の囚人にギターを支給する支援活動を積極的に行なっている。

2001年2月、ロサンジェルスで初めてクレイマーと言葉を交わす機会を得た。ワイルドな生活と幾多の困難を乗り越えた不屈のロッカーは穏やかだった。短い会話だったけれど、彼の真摯な人柄が伝わってきた。この人の音楽を少しでも多くの人に聴いてもらうために、何かしたいと思った。

1975年6月、連邦麻薬取締局捜査官の一団が怒号と共にクレイマーの部屋に踏み込んで来る。振り返った彼が見たものは、仲間と思っていた男が自分の頭にぴたりと向けた9ミリ口径銃の銃口だった。両手を挙げてクレイマーは叫んだ。「撃つな!!」

囚人ウェインから市民ウェインまで、彼がたどった道を知って欲しい。

囚人ウェインから市民ウェインへ