Photo courtesy of Gregg Gerson

1982年頃にウェインは Air Raid というトリオを結成する。メンバーは写真左から次の通り。

グレッグ・ガーソン(Dr/V)
ウェイン・クレイマー(G/V)
ボビー・ディー(B/V)

このバンドは1983年には解散したものと思われる。エア・レイドの資料は極端に少なく、この写真はドラマーのグレッグが彼のホームページに大きく掲げている貴重な1枚。インタビューでもウェインがこのバンドについて触れているものを見つけることはできなかった。録音されて残っているものもないと思っていたが、この写真の転載許可を求めるためにグレッグに連絡したところ、ベースのボビー・ディーからもメイルが来て、ウェインと2人で書いた曲が数曲残っているかもしれないから探してくれるという。見つかればエア・レイドのサウンドを伝える唯一の音源となるだろう。

その後、1983年にウェインはソロ名義でシングル1枚をリリースしている。

1970年代後半から約10年間、ウェイン・クレイマーは、ニューヨークのロゥア−・イ−ストサイドに住んでいた。アンダーグラウンドのアーティストが多く住むマンハッタンの一角である。Air Raid 解散後、彼はまた新しくロック・バンドを組むことに熱意を失い、ローカルのパンク・バンドをプロデュースするかたわら、ニューヨークに移住してきていたミック・ファレンと共に実験的なアングラ劇団を結成する。「ロックを越えたさらにクリエイティブなことがしたかった」(ウェイン)という。そしてR&Bのミュージカル、"The Last Words of Dutch Schultz" をファレンと共同制作、ニューヨーク市内のナイトクラブ Trammps で毎週上演していた。全員がミュージシャンである約15人の役者によって演じられる17曲のマテリアルから成るこのミュージカルは、禁酒法時代に実在したギャング、ダッチ・シュルツことアーサー・フレーゲンハイマーが臨終のベッドで語った、幻想的な詩に似た告白に基づいている。1987年には3曲を収めたサウンド・トラック "Who Shot You Dutch?" もリリースされている。

デトロイト出身の風変わりなアシッド・ファンク/R&Bバンド、Was(Not Was) とウェインのコラボレ−ションが始まったのがこの頃だった。このバンドの中心メンバーは、ドンとデイヴィッドの「ウォズ兄弟」(ジョークで、実際にはイトコ)。ティーンエジャーの頃、彼らのハイスクールで行われたMC5のギグに大変なショックを受けて以来、2人は「MC5がもたらす衝撃を再現する」ことを常に念頭において創作を行ったという。1983年にリリースされたWas(Not Was) のセカンド・アルバム "Born To Laugh At Tornados" にウェインはギターで参加、このアルバムはチャートにも入る大ヒットとなった。Was(Not Was) は1993年には解散したが、ウォズ兄弟とウェインのコラボレーションはその後も続き、現在に至っている。

1988年にはカナダの Dad's Favorite Records からミック・ファレンとの共作でシングル1枚を出したが、その仕上がりがよかったため、1991年、この2曲を収録したウェイン・クレイマー初のソロ・アルバム、"Death Tongue"をリリースした。またこの頃テネシー州ナッシュビルに移住している。

この年の9月18日にロブ・タイナーが心臓発作で死亡したわけだが、ウェインはロブが生命保険の契約さえしていなかったために、残された妻子の生活費と学費が窮乏しそうであることを知り、チャリティー・コンサートを企画、開催した。翌92年2月22日、デトロイトのステイト・シアターにおいてMC5解散後初めて、4人のメンバーが再び集まり、かつてのセットを演奏したのである。ボーカルはマイク・デイヴィスがとった。往年のMC5ファンが数多く集まり、感動的なコンサートだったという。

1994年にウェインはロサンジェルスに移ってくる。書き溜めた曲をリリースしてくれるレコード会社を捜していたところ、たまたま彼のギグを訪れた友人を通じてエピタフの創始者でありバッド・リリジョンの創立メンバーでもあるブレット・ガ−ウィッツと会うチャンスを得た。しばらくデモ・テ−プ耳を傾けていたガ−ウィッツは録音のし直しを提案する。そして初対面のウェインに、それに要する費用やスタジオ、ミュージシャンのアレンジなど、全面的協力を無償で申し出たのだった。ガーウィッツはかねてからMC5に広大な尊敬の念を抱いており、MC5がいなかったら彼のバンドのみならずパンク・バンドは一つも存在しなかったとウェインに語る。ウェインはエピタフにサインし、95年から98年にかけて4枚のアルバムをリリースした。
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