50歳を迎えようとするウェインがリリースしたエピタフ3作目は、「自分史」を音楽に移し変えた極めてソフィスティケイトされたアルバムになった。ウェイン・クレイマーという人がMC5時代から常に「一歩先のロック」を目指してきたことをあらためて感じさせられる1枚。プロデューサーにデビッド・ウォズを迎え、サンプルとループを多用したファンキーなディジタル・サウンドに驚かされる。ウェインはヒップ・ポップやラップにも偏見がないことが本作でわかった。歌詞も鋭く冴え渡っている。当アルバムがリリースされた時、アメリカの音楽ジャーナリズムは絶賛の嵐だった。いかにもアチラのプレスの人々が好みそうな知的なサウンドなのである。
2の"Back When Dogs Could Talk"というのは、アメリカ・インディアンの言い回しで「いにしえの昔」を表わすのだそうだ。
4の"Down On The Ground"は、68年のシカゴ民主党大会の衝突を歌ったもの。この集会でファイブがライブを行っていた時、空には当局のヘリコプター数機が旋回し、そのプロペラの音が彼らのサウンドと奇妙にマッチしていた、と後年ウェインが語っていたが、それが巧みに表現された1曲。冒頭「警官は秩序の回復に努めていただけです。」と嘘ぶくのは、シカゴ市長デイリーの肉声である。
7の"No Easy Way Out"は胸をしめつけられるようなメロディーと内容を持った歌。ロサンジェルスでウェインがこれを歌うのを聴いた時、不覚にも涙ぐんでしまった。
9の"Count Time" で歌われているのは、刑務所の生活。実際に服役経験のあるアーティスト達の名前が看守によって次々と点呼されていく。
10の"Snatched Defeat" はジョニー・サンダースと結成したギャング・ウォーを歌った歌。当時ジョニーについて周囲の人間が使っていたのが "snatching defeat from the jaws of victory"(「福を転じて災いと為す」) という表現だった。もちろん慣用句「災い転じて福と為す」と反対の意味のジョークである。何の問題もなく首尾よく進んでいることを、ジョニーがやって来てはすべからくブチ壊してしまう、という嘆きをそれは表わしていた。ラストの下り、現在ドーピングを強く否定するウェインの姿勢は辛らつである。
12で表現されるのは、ドラッグからもアルコールからも完全に「更正」したウェイン・クレイマー。あたかもロサンジェルスの温かい日だまりで、昔のワイルドな日々を回想しているような趣の1曲である。
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