Adult World (July 16, 2002) Muscle Tone Inc.
MTR05
  1. Brought a Knife to the Gunfight (Kramer)
  2. Great Big Amp (Kramer)
  3. Adult World (Kramer)
  4. Talkin' Outta School (Kramer/Hellacopters)
  5. Nelson Algren Stopped By (Kramer/Williams)
  6. What About Laura (Kramer)
  7. Love, Fidel (Kramer)
  8. The Slime That Ate Cleveland (Kramer)
  9. Sundays in Saigon (Kramer)
  10. The Red Arrow (Kramer)
With The Hellacopters
With x-Mars-x

With Syd Straw

ウェイン・クレイマーが5年ぶりに発表したソロ・アルバム。10曲中8曲の作詞作曲を彼自身が手掛け、4曲でベースも弾いている。3、4、5を除きドラムは全てエリック・ガードナー、ダグ・ラーンが4トラックにベースで参加。共演者としては、4のヘラコプターズ、5のマーズ・ウィリアムズ、6の女性シンガー、シド・ストロゥ。マーズ・ウィリアムズは、80年代に短期間活動したニュー・ウェーブ・バンド、「ザ・ウェイトレシズ」に在籍し、サイケデリック・ファーズやビリー・アイドルなど、さまざまなロック・ミュージシャンのレコーディングに参加しているジャズ・サックス・プレイヤー。

全体にシンプルな音作りで、ガレージとまではいかずともDIY 的感覚がある。また最近ウェインがしばしば言及している「プロ・ツール」を用いて合成したと思われるサウンドが随所に使用されている。大人の知性。しかし同じようにディジタル・サウンドが駆使されているにも関わらず、Citizen Wayne とは異なり、暖かみと包容力があるアルバム。

歌詞は全て秀逸で、特にオープニングの Brought a Knife to the Gunfight は、「なりきれない」心優しい男達に向けられたメッセージがしみじみと心に沁みる。マッスル・トーンの了承が得られ次第、対訳を掲載したい歌詞である。この曲を初めてライブで聴いた夫はのたまわった。「あれ、こいつ、ヒット曲が欲しいのかなって思ったよ。」失敬な。しかし真偽はともかくそれくらい人の心を捕えるメロディーで、ちょっとU2に似た感じがなくもない。3のタイトル・トラック「アダルト・ワールド」ではダグ・ラーンがドラムを叩き、ウェインがその他全て(ギター、ベース、ボーカル、プログラミング)を担当している。5のフリー・ジャズ・スポークン・ワードで語られるのは、デトロイト出身の著名な社会派作家、ネルソン・オルグレン。6は女性コーラスが洒落たモータウン・サウンド。そして7の "Love, Fidel" だが、キューバのジャングルから、監獄の独房から、恋人に手紙をしたためるフィデル・カストロを歌った曲なのだ -- この壮大なロマンス!手紙の最後を彼はこう結ぶ。「愛をこめて。フィデル」

いろいろな意味で、現在のウェイン・クレイマーが凝縮されている、味わい深い珠玉の10曲。今日(2002年8月20日)渋谷のHMVでかなりまとまって置いてあるのを見たので、興味がある人は是非購入して欲しい。