ジョン・ランドゥーがインタビューに応じて出演しているのにも驚いた。制作過程で数多くの関係者にインタビューと取材が行われたが、作品中に使用されたのはごく近しい関係者のみ、その中には2枚のオフィシャル・アルバムそれぞれのプロデューサーも含まれていた。ジェフリー・ハスラムはファンの評価も高い人だし出てきても当然という感はあったが、とかく「悪者」扱いされているランドゥーが出演を了承したのは、ウェインの強い説得があったからだそうだが、彼としても語っておきたいことがあったからだろう。"They hired me."(「彼等が僕を雇ったんだ。」)と語るランドゥーの眼には涙がにじんでいるように見えた。バック・イン・ザ・USAレコーディング中のスチール写真が出てきたが、うつむき加減のメンバーの悲痛とも見える表情が痛々しかった。
また70年ファン・シティー・フェスティバルの映像が残っていたのにも驚いた。ミック・ファレンはその発起人として写真のみで出演、一瞬だったけれどカッコよかった。ローナン・オライリーと一緒に映っている映像も入っていて、彼は非常にミステリアスな人物なのでとても興味深く観た。
そして72年のウェンブリー・ロックンロール・フェスティバル。ドクター・フィールグッドのビッグ・フィギュアが述べていた「顔を金色に塗りつぶしたギタリスト」というのを自分はずっと何となくフレッド・スミスかと思っていたが、それは実はウェインであり、フレッドの出立ちは胸に大きく「SS」と書いた銀ラメ、銀色マントのスーパーマン(のデキソコナイみたいな)・コスチュームだった。(このヘンテコな衣装に身を包んだフレッドは本当に幸せそうで、観客から笑いが漏れる。)この時ロブ・タイナーの容姿も妖気を帯びて、フィギアが「一度見たら忘れられない奴ら」と評したのもうなずける。
それからウェインとフレッドがたった2人で出かけていったヨーロッパ・ツアーのライブ映像。ギターを弾くフレッド・スミスの、助けを求めているかのような絶望的表情が忘れられない。フレッドのインタビュー映像も数カ所出て来るが、積極的な話し方で、そういう場面では寡黙な人という印象を持っていたので意外だった。
やがてドラッグに蝕まれてバンドは分裂、崩壊していくわけだが、最終的にセンチメンタルに終わらせていないところがいい。哀愁はあるけれど、決して感傷に陥らないモーター・シティー・ロックンロール版アメリカン・グラフィティーである。MC5への熱い思いを込めて製作されながら感傷に溺れず、一方的な思い入れに突っ走ることなく、ファンでなくても十分興味深く見られる映画に仕上げた制作者のプロフェショナルな作品作りにデッカイ五ツ星を送りたい。
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