MC5のドキュメンタリーDVD, "Kick Out The Jams" を観た。

フューチャー・ナウ・フィルムズ製作のドキュメンタリー映画、"MC5: A True Testimonial" の公開が、劇場上映・DVDいずれの形でも全く見通しが立たないのに業を煮やしてか、復刊されたデトロイトのロック・マガジン、Creem が 2005年7月にリリースした。プロデュースは、デストロイ・オー ル・モンスターズの創立メンバーであるキャリー・ローレンと、レニ・シンクレ アとなっている。 DKT/MC5側からは全く情報が流れていなかったので、ATTと同じ憂き目に 遭い、本当にリリースされるのか危ぶまれたが、DKTをマネージしているウェイ ン・クレイマーとマイク・デイヴィスの夫人、マーガレット・サーディとアンジェラ・デイヴィスの名が「コンサルタント」としてクレジットされたところを見ると、何らかの妥協と公認が為された上で発売されたのだろう。

60年代にレニが撮り貯めたと思われる35分間の実写ビデオで、切れ切れの シーンの寄せ集めであり、いわばファミリー・ビデオを観るようなもの。MC5 に興味がない人には全く価値はない。この点が一つの映像作品として成り立って いるATTと異なる。サウンド面でも、使用されているのは聴き覚えのあるライブ音源ばかりで特筆すべきものはない。繋ぎに映るサイケデリックな映像は、当時の制作か、今回ローレンとレニが新たに作ったものか不明だが、現代のさまざまなディジタル・アート映像に見慣れた目には、低予算で制作された一昔前の映像効果という印象は否めない。

にもかかわらず、MC5の音楽やポリシー、ライフ・スタイルに興味を抱く人にとって、この35分間は価値がある。野外コンサートのシーンが多く、その中には未公開の映像も多く含まれている。ロブ・タイナーのアフロ・ヘアがワサワサと風に揺れ、ウェイン・クレイマーの超絶にカッコいいアクションとその風情を観るだけでファンは感動し、多くのギター・プレイヤーにインスピレーションを与えるであろう。「キック・アウト・ザ・ジャムズ」の壮絶なプロモーション(?)映像は 一般に出回っているが、ここにも収録されていて、それは何度観ても目が釘付けになる獰猛MC5の真骨頂である。60年代という激動の時代に活動したロック・バンドとファンの、現代では考えられない連帯感が伝わってくるし、チープなサイケデリック映像もかえってノスタルジックで嬉しい。

ボーナスとしてジョン・シンクレアのインタビューが入っているが、食事をしな がら翁が昔語りをするのを編集無しで延々と収録した長回しで、これは英語が相当理解できる人でもなければ退屈する。が、彼の語り口や人柄を想像する資料とはなるだろう。

同封されていた写真一枚は初めて見るものだったし、英語のブックレットもついていた。日本仕様のDVDプレイヤーでも再生できたし、画質も良好で、この内容で1,700 円ならファンであれば買う価値はある。アマゾン・ジャパンから購入できる。